サイバー対応に熱心なオバマ政権 2/2 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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サイバー対応に熱心なオバマ政権
(三井物産戦略研究所 研究フェロー 鈴木通彦)


サイバー能力に対する低い自己評価と新たな戦略方向

 米国のサイバーセキュリティは、1999年12月、クリントン大統領によるネットの利便性を高める電子政府化を促す覚書に端を発する。ネット化の背後には、必ず脆弱性が存在する。そこで、歴代の政権は、図表1のようにサイバーセキュリティに関するいくつかの報告書を出した。そして、オバマ政権になって、報告書の数が特に増えた。それは、ネットを経済発展の原動力にしたい考えと、米国社会が進歩すればするほどサイバー攻撃に脆弱になるというジレンマに由来する。

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 戦略の中核は2010年3月の「包括的サイバーセキュリティ・イニシアチブ」である。ここでは、ネット利用を促すとともに、サイバー対策の基準を作り、研究開発と教育を促し、しかし、企業や個人の防護はあくまで自主性に任せる新戦略を打ち出した。

 その一方で、米国のサイバー防御力がそれほど高くなく、政府機関や米国社会のネット依存度が高い分だけ総体的にサイバー攻撃に対し脆弱で、また、基本的人権に関わるプライバシーや個人情報保護に対する国家統制が難しいとの悩みもある。

 クリントン政権とブッシュ政権のサイバースペース・セキュリティ担当大統領補佐官リチャード・クラークは、2010年の著書「世界サイバー戦争」で各国のサイバー戦能力を、攻撃力、依存度および防御力で評価した。彼は、米国は攻撃力が高いものの、社会インフラを運営するに当たり、高い技術力を持ちながらもネット依存度が高いため極めて脆弱で、世界中の多くの攻撃源から米国を守るには防御力(探知、分析、緩和、そして予防する能力)も充分ではなく、総合力が低いと述べる。警鐘を鳴らす意味からか米国に手厳しいが、中枢にいた人物によるものだけにその評価は重い。防御力の低さは、その後のサイバー司令部の編成に伴う指揮の一元化や後述するような上級担当部局の設置など、クラークが提唱し続けたいくつかが具体化したことで現在は改善されつつある。

 これらを踏まえ、商務省は、①インターネットプライバシーの強化、②サイバーセキュリティの改善、③知的財産の保護、および④情報の自由な流れの保証を基本原則に組み込むとともに、⑤ネット社会の脆弱性軽減や情報通信分野の革新に功績のあった企業に調達でインセンティブを付与し、⑥研究開発と国際協力を重視するという6つの新戦略を打ち出した。また、国防総省は、サイバー攻撃を受ければこれを軍事作戦、すなわち戦争行為として扱うほか、人材を確保し、技術革新を促し、国内各機関や友好国軍との連携を強化するなど、5つの戦略を公表した。これにより、オバマ政権のサイバー戦略が固まった。


オバマ政権のサイバー戦略の3つの特徴

 オバマ政権の戦略は、総じて、ネットの利便性重視を基本に、国家組織に対するサイバー防御を強化し、民間はビジネス活性化を促しつつ自主防御に任せる方向で、その特徴は、以下の通りである。

 第一に、米軍とその他の政府機関および民間などの分野に応じて規制する戦略。政権は、ビジネス発展の阻害になるので、民間に対し強い国家統制をとり得ないと考える。このため、政権は、政府機関の米軍を完全統制し、他の政府機関に対して情報公開とのバランスに配慮しつつ統制するが、民間については一定の基準内で自主規制に委ねる方向である。しかし、国家がサイバーを総合指揮する意思は強く、最高技術責任者、最高情報責任者、およびサイバーセキュリティ調整官を新たに大統領府に置いた。民間は、自主対応に委ねるが、利便性とセキュリティコストの相関が不明なため、今後の具体策が課題として残った。また、防御強化のコストが著しく高く、それにもかかわらず官民組織への侵入阻止が容易でないことから、少なくとも民間に対しては、防御よりも被害の早期復元に戦略をシフトさせる可能性も議論されている。

 第二に、国際協力。政権は、「サイバースペースのための国際戦略」を出し、初めて国際協力に乗り出す意思を表明した。単独の国家が、非国家主体のサイバー攻撃を阻止することはほぼ不可能で、国際協力が欠かせない。そこで、国際協力を拒否し続けてきた米国も方向転換し、オープンで共同使用でき、安全性と信頼性が高いサイバースペースを作るため国際協力を提案するに至った。サイバーセキュリティ外国支援プランや国際基準設定委員会の設置などが具体例になりそうだ。

 第三に、研究開発と教育の重視。ネット社会はビジネスを活性化する。このため最先端技術をいかにリードするかが重要になる。政権は、サイバーに関する研究開発と人材育成を重視し、そのための予算を主に国防総省と国土安全保障省に計上した。例えば、2012年国防予算の情報技術分383億ドルのうち32億ドルはサイバーセキュリティ関連である。事前探知や不正アクセス防止を狙いにする政府用新ITシステムEINSTEIN3も開発中で、さらに、中国におけるGoogleやアフリカ諸国のネット介入を契機に、国家によるWeb監視を乗り越える新通信方式の開発着手も発表された。

 教育分野の代表は、サイバーセキュリティ人材発掘のための官民協同組織「米国サイバーチャレンジUSCC」である。この組織は、ITに関する知識・技能を問う競技大会や人材開発のための集中教育を行っている。国防総省主催の犯罪科学チャレンジ、空軍主催のサイバーパトリオット、非営利団体によるNetWars Capture-the-Flagなどの競技会がその例である。また、全米科学財団は政府機関に勤務を予定する学生に対する奨学金制度を打ち出した。

 同じような社会構造を持ち、防御力も低い日本にとり、米国がとった分野に応じて規制する戦略、特に商務省の6つの戦略が、ネットを通じた経済発展とサイバー防御のバランスにどれほど効果を見せるか注目される。