社会的企業家による雇用・ソーシャルキャピタルの創造 2/2 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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社会的企業家による雇用・ソーシャルキャピタルの創造
(塚本一郎 明治大学経営学部教授)


3.WISE型社会的企業と中間労働市場(ILM)

 イギリスでは、「中間労働市場」(Intermediate Labor Market)(以下、ILM)というプログラムが、長期的失業状態の改善や住民主体の地域再生の促進の手法として開発されてきた(Marshall and Macfarlane, 2000)。特に1997年に発足したブレア労働党政権下での若者や長期失業者、障がい者らの就労を促進するニューディール政策の下で、中間労働市場が活用されることとなった。1998年に設立された全国ILMネットワーク(the National ILM Network)よれば、中間労働市場とは、以下のような主要な特徴を有するものとして理解されている(Marshall and Macfarlane, 2000)。


・ 主要な目的は、労働市場から最も疎遠な人々に対して、仕事の世界に戻るための橋渡しをすることにある。中間労働市場は、参加者のエンプロイアビリティ(雇用されうる能力)全般を改善することにかかわるものである。中間労働市場では、長期失業者、あるいは他の点で労働市場において不利な状況にある人々に焦点をあてる。

・ 中核的な特徴は、「非正規雇用契約の下での賃労働」ということであり、職業訓練、能力開発や求職支援活動を伴って実施される点である。

・ 中間労働市場が職務の非正規雇用への置き換えや代用の手段となることを制限するため、その仕事は二次的な経済活動として、また理想的にはコミュニティに便益をもたらすものとして位置づけられる。

・ 中間労働市場のプロジェクトやプログラムは、多様な資金源から構成される資金パッケージに依存している。


 以上のような特徴を有するILMであるが、当時の労働党政府は、ILMが二つの政策領域で貢献が期待できるとみなしていた(Marshall and Macfarlane 2000)。まず失業者が労働市場に戻ることを可能とさせる「労働市場介入」の領域である。もう一つは追加的な地域住民向けサービスを提供することによる近隣地域再生である。

 イギリスで最も代表的なILMの事例はグラスゴーのWiseグループ(Wise Group)である。Wiseグループは1983年に活動を開始した社会的企業であるが、その活動は中間労働市場のモデルとなったことでも知られ、現在もスコットランドやイングランド北東部で事業を展開し、2010年時点で約5500人を対象に就労支援に取り組んでいる。

 イギリスのWISE型社会的企業のすべてが、一般労働市場への橋渡し(仲介)役としての中間労働市場(ILM)機関として活動しているわけではない。確かに、カリスマシェフの社会的企業家ジェイミー・オリバーの「フィフティーン」(若年無業者をレストランで職業訓練し飲食産業への就労を支援)のようなILMタイプも多数存在する。一方で、本格的に失業者等を訓練し、常用雇用として活用するタイプのWISE型社会的企業も多い。ハックニー・コミュニティトランスポート(路線バスやスクールバスの運行)がその典型である。また大規模植物園を経営するエデン・プロジェクトのように、ILM機能の発揮が主たる目的ではないが、本業との関連で園芸のスキルを受刑者等に習得させ、彼らの再就職を支援する事業に取り組む社会的企業も存在する。すなわち、WISE型社会的企業には、継続的な事業活動を通じて地域経済を活性化させ、「雇用」を創造する役割が期待されているが、それらの雇用形態には本格的雇用のみならず、職業訓練的・臨時的雇用も含まれる。

 日本においても社会的企業家が本格的な雇用の受け皿となることが期待されるが、小規模事業者の多い現状では過剰な期待のように思える。むしろ労働市場への仲介役として中間労働市場機能を担う社会的企業家を政府や民間企業・財団等が支援・育成する方が現実的な対応であろう。その方が政策的・社会的インパクトも大きいように思われる。


4.雇用創出を通じたソーシャルキャピタルの創造

 社会的企業家には、雇用創出の役割が期待されているが、それは営利企業も同様である。営利企業と異なるのは、社会的企業家による雇用創出が「ソーシャルキャピタル」(社会関係資本)に強く依存し、また「ソーシャルキャピタル」の創造を伴う点にある。「ソーシャルキャピタル」とは、政治学者パットナムなどによれば、「相互利益に基づく協調や協働を促進するネットワークや規範、信頼のような社会的組織が有する特徴」を意味する。NPOや協同組合、社会的企業の意義は、まさにソーシャルキャピタル的な資源(個人や団体間のネットワーク、信頼に基づく寄付やボランティアなど)を活用し、ソーシャルキャピタルを創造するところにある。社会的企業家は、単に自社の成長のために雇用を創出するのではない。社会的企業家には、様々な個人や団体との協働というソーシャルキャピタルに依存しながら事業活動を行い、雇用を創出することで、孤立しがちな人々の社会的なつながりを取り戻し、継続的事業活動を通じてネットワークや信頼関係を維持・発展させることで、コミュニティにおいてソーシャルキャピタルを醸成する役割が期待されている。

 東日本大震災の被災地(宮城県女川町)で現地人材を雇用しながら自治体との協働での学習塾「コラボレーションスクール」運営に取り組むNPO法人NPOカタリバなどは、まさに雇用とソーシャルキャピタルを創造する社会的企業家である。阪神・淡路大震災を契機に設立され、現在も地域のネットワークを活かしながら、行政との協働で不利な条件下にある人々の就業支援や起業支援を通じて地域活性化に取り組み発展しているNPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸(CS神戸)も同様である。CS神戸は、自分たちの経験・ノウハウを活かし、現在、被災地支援にも取り組んでいる。

 東日本大震災における被災地の復興を展望する際、政府や企業の役割も重要であるが、地域におけるソーシャルキャピタルの醸成を伴った雇用創出効果という点で、社会的企業家と政府・企業・地域コミュニティ等との協働という方向がもっと模索されてよいだろう。