防災・災害復興におけるソーシャル・キャピタルの役割 2/2 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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防災・災害復興におけるソーシャル・キャピタルの役割
(山内直人 大阪大学大学院国際公共政策研究科教授)


4.ソーシャル・キャピタルと市民活動

 ソーシャル・キャピタルには、地域、民族、社会階層などが同じグループ内での結束を固めるような内向き、閉鎖的な結束型(Bonding)と、異なるグループの橋渡しするような解放的、水平的なネットワークを形成する橋渡し型(Bridging)の二タイプがあるとされる。コミュニティにおける伝統的な地縁・血縁関係は、どちらかというと結束型のソーシャル・キャピタルを形成している一方、テーマや問題意識を共有するNPO活動などをベースにした活動は、橋渡し型のソーシャル・キャピタルを形成していると考えられる。

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 戦後日本のコミュニティにおいては、自治会・町内会やこれらに付随する婦人会、老人会などの地縁組織が重要な役割を果たしてきた。しかし、こうした地縁組織は大都市部を中心に加入率の低下など弱体化が進んでいる。また、行政の影響力の強い組織として、社会福祉協議会が各自治体で活動している。これらの組織は、結束型ソーシャル・キャピタルの形成に関わっていると考えられる。

 一方、福祉、環境、教育など、様々な市民活動あるいはNPOの活動は、参加する人の互酬的な規範を強め、相互信頼を高め、ネットワークを強化することを通じて、とりわけ橋渡し型ソーシャル・キャピタルの形成に大きな役割を果たすと考えられる。

 他方、豊かなソーシャル・キャピタルは、NPO活動を活発化させる環境を提供すると考えられる。このように、ソーシャル・キャピタルの形成とNPO活動の関係は、相互依存的であると理解することができる。

 もともと地縁組織もNPOの一種であるが、活動歴の長い地縁組織のなかには、新興勢力のNPOを、自らの存在を脅かす対立勢力と捉える向きも少なくない。そこまでいかなくても多くの地域において両者の連携はなかなかうまくいかないのが現状である。しかし、最近では伝統的な地縁組織をNPOとして再生させる試みや、新たなコミュニティのニーズに応えてNPO法人を立ち上げる例も増えており、今後地縁組織とNPOが連携・融合して新たなソーシャル・キャピタルを形成することが期待される。


5.政策的インプリケーション

 それでは、ソーシャル・キャピタルの形成を政策的に促進するためには、どうすればよいだろうか。

 物的資本や人的資本であれば、投資減税を行う、奨学金を増やすといった政策対応が考えられるが、ソーシャル・キャピタルの場合には、人々のライフスタイルに直接関わる話なので、これに直接介入するような政策は採用しにくい。しかし、ソーシャル・キャピタルの形成にとってプラスになる活動を政策的に支援することにより、ソーシャル・キャピタルの形成に政策が間接的に関与することはできるだろう。

 たとえば、ソーシャル・キャピタルとNPO活動、あるいはソーシャル・キャピタルと寄付・ボランティアが相互補強的な関係を持つとすると、NPO活動や寄付・ボランティアを促進させるような政策は、間接的にソーシャル・キャピタルの育成にもつながる可能性がある。また、それにより形成されたソーシャル・キャピタルがNPOや寄付・ボランティアを活性化するという好循環を生んでいくことが期待される。

 この観点からみると、寄付税制を強化し、寄付の増加を促す税制改革は、間接的にソーシャル・キャピタルの形成にも資すると考えられる。最近の寄付税制改革では、寄付控除の対象となるNPO法人(認定NPO法人)の認定要件を大幅に緩和しているほか、納税者が所得控除だけでなく、税額控除も選択できるようになり、寄付の増加が期待される。

 また、現在実施されているさまざまな政策を、ソーシャル・キャピタルを豊かにするか、あるいはソーシャル・キャピタルの形成を阻害していないかどうかという観点から総点検し、仕分けすることも重要だと思われる。

 たとえば、阪神大震災の時には、仮設住宅における孤独死の問題が起こった。多くの被災者は、震災前に暮らしていたコミュニティを離れ、仮設住宅での長期の生活を余儀なくされた。元のソーシャル・キャピタルは崩壊し、高齢者などに対するケアが十分行き届かなくなり、これが孤独死の背景にあると指摘された。

 その経験から、仮設住宅を建設する際、一定戸数ごとに入居者の交流スペースを確保することや、近所づきあいを促すようなレイアウトにすることが重要であると指摘された。しかし、今回の日本大震災後の仮設住宅の建設に当たっても、戸数の確保や工期の短縮が優先され、その教訓は部分的にしか生かされなかった可能性があり、今後検証すべき課題として残されている。

 ソーシャル・キャピタルは、長い時間をかけて形成されてきたものであり、その地域の歴史的、文化的要因に依存する面が大きい。それだけに、ソーシャル・キャピタルの形成が公共政策の対象となりうるとしても、国や自治体、それに地域社会が長期的視野にたって地道に取り組むべき課題であるといえる。