問題提起:「改革迫られる電力政策」 | (仮)アホを自覚し努力を続ける!

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問題提起:「改革迫られる電力政策」
(伊藤 元重 NIRA理事長)


危機対応と長期ビジョン

 東京電力の運営をどうするのか、これは今や一企業の範囲を超えて、日本全体にとって重要な政策課題になっている。原発事故を終息に向かわせること、放射能汚染への補償をきちっと行うこと、電力不足の混乱を極力回避することなどが当面の政策課題であるが、それは同時に東京電力の経営問題にも深く関わってくる。電力料金への転嫁をせず、政府からの支援もなければ、東京電力は債務超過に近い状態であると言ってよいだろう。日本航空のように会社更生という道を辿るのは、東京電力の場合には現実的とは思われない。東京電力のリストラと経営改革を前提としつつも、政府の支援を入れた私的整理を軸とする再建策が模索されるだろう。

 私には、東京電力の問題と日本航空の問題が重なって見えてくる。世界のどの国でも、航空業界は大きく変化している。残念ながら日本では、航空業界の再編ではなく、日本航空の救済のために膨大な資金が使われている。日本航空の救済によって日本の空は10年前に戻ってしまったと感じている人は多いはずだ。日本の航空業界の将来のあるべき姿を考えた改革にはなっていないのだ。時間に追われる日本航空の資金繰りと、飛行機を一日たりとも飛ばさないわけにはいかないというプレッシャーが、目先の問題に対応することで精一杯、という状況を作ってしまった。日本航空問題が一段落して周りを見回したら、航空業の姿は理想からはほど遠い状況になっているのだ。

 電力の場合には、「当面の問題」に対応しなければならないというプレッシャーがもっと強い。電力は文字通り1分たりとも止めることはできない。万が一でも大規模停電が起きたら大変なことになる。放射能汚染の補償額は膨大になるし、社債や銀行融資などでの東京電力の巨額の資金調達は、一企業の問題を超えて日本の金融システムにも大きな影響を及ぼしかねない存在である。電力不足の問題についても、対応を誤れば、日本経済全体に大きな影響を及ぼしかねない。緊急性の大きなこれらの課題に適切に対応しなくてはならないが、目先の問題をクリアするのに精一杯で、気がついたら見るからにグロテスクな電力産業の姿になっていたというのでは困るのだ。


改革は早期に着手を

 原発事故で、日本の電力政策は大きな見直しを迫られている。震災前の計画のように、原発への依存度を高めて温暖化ガスの排出を抑えるという道は現実的ではない。今後、どこまで原発に依存するのかということは国民的な議論に委ねるとしても、自然エネルギーへの利用を拡大していくことと、節電を徹底していくことが急務となっている。電力改革には、早急に着手する必要がある。

 電力改革は平時でも困難な課題だが、今回のような緊急時にはさらに困難の度合いを増す。緊急時であるということが改革を先送りすることの言い訳になりかねない。混乱を極力回避したいという意向が働いて、大胆な改革が回避される恐れもある。

 そうした事態を避けるためには、一刻も早く、電力改革の長期的な方向について政策の方向を決めなくてはいけない。改革の方向を明確にした上で、当面の問題の処理にあたる。これが、日本の電力政策を正しい方向に持って行く上で必要なことである。長期的なビジョンなしに当面の対応に当たる、ということはあってはならない。


送電と発電の分離

 地域ごとに送電と発電の両方の機能を備えた独占企業が電力供給を担っている。これが戦後の日本の電力供給の基本であった。拡大する電力需要に対して、安定的な電力供給を確保する上で有効であったと言われる。しかし、自家発電、自然エネルギーの有効活用、小規模水力発電など、多様な電力源の拡大を支援し、電力供給で競争メカニズムを強化するためには、送電と発電を分離する必要がある。海外の先進国で、日本のように送電と発電の両方で独占に近い状態が維持されている国は多くない。

 原発の安全性の確保ということから、原発の管理のあり方も論点となるだろう。原発の管理や運営に国がもっと関与することになれば、その部分を電力会社から切り離すということも検討されるだろう。送電と発電の分離について乱暴な議論はするべきではないだろうが、今の地域独占体制を維持したまま、電力で大胆な改革を進めていくことは難しい。


電力の総量買い取り制度

 太陽光発電や風力発電を普及させるためには、電力の総量買い取り制度の導入が有効である。しかも、その買い取り価格が高めに設定されるほど、これらの自然エネルギーによる発電への投資資金が回収されやすくなる。高価格での総量買い取り制度を導入すれば、自然エネルギーを利用した発電量は急速に拡大すると考えてよいだろう。

 ただ、こうした制度を導入すれば、それは電力コストを引き上げてしまう。これまで制度の導入に慎重であったのは、これ以上に電力料金を上げれば日本経済全体に大きな負荷がかかると考えられていたからだ。代替エネルギーの普及と電力コストの間には、トレードオフの関係がある。ただ、原発事故を契機にして、代替エネルギーを拡大させるためには電力コストが上がることを容認せざるを得ないという考え方が強くなってきた。もちろん、どの程度のコストアップを容認できるのか、という問題は残る。


電力料金制度の見直し

 電力料金制度を柔軟に活用することは、節電にも、そして電力の効率的利用にも、きわめて有効な手法であるはずだ。ピークとオフピークの電力料金が同じであるというのはおかしい。ピークの料金を高めに設定してオフピークに需要をシフトさせることを可能にするように、スマートメーターの導入を急ぐべきだ。そうした柔軟な料金制度が導入されれば、それに対応した形でより高度なスマートメーター、低コストの蓄電池、スマートハウスなどの製品化も進み、節電分野で大きな技術進歩が期待できる。それは将来の日本の主軸産業の一角になるだろう。

 電力不足への対応のためには、ユーザー間の電力取引を拡大する手法の導入が望まれる。当初の予定よりも少ない電力使用ですむ企業は、余った電力を他の企業に売ることができる。逆に電力が余分に必要になった企業は多少高い価格でも外から購入してくる。こうしたスポットの電力の市場を設定し、日々の電力需給状況で価格が変動するという制度を導入している国もある。これまで日本は、電力供給を一定の料金でいくらでも電力会社から受けられるという制度であったが、送電と発電の分離を進めていけば、多様な発電主体だけでなく、利用者間での電力取引の可能性も開けてくる。