復興に向けて -まちづくりの論点とキーワード-
(西田 穣 株式会社地域計画研究所代表取締役)
■ シームレスな復旧・復興 -地域特性を尊重した復興プランづくり-
先に、「復興・復旧はスピードが勝負か?」という問題提起をしたが、三陸という土地条件を踏まえると、二重投資を避け、地域に金を落とす「身の丈にあった復興」プランと復旧から復興までのシームレス(連続的)な仕組みが重要だと思う。
第一に、現在、各県が提示している復興計画は高台移転を基本としている。明治・昭和の津波の歴史からも、出来るだけ安全な所に住む事は重要であるが、全てが高台に移転すべきか。また出来るのかという問題がある。
いずれにしろ低地にも都市機能を残さざるを得ない都市部は、高台のニュータウンと平地の中高層住宅を適切に組み合わせていく事となろうが、集落部については、山が迫る三陸地域では大きな平坦地を確保する事は難しい。明治・昭和の津波の当時に比べ、今はクルマという移動手段があるが、集落に住む高齢者たちは直にクルマに乗る事が出来なくなり、陸の孤島化する恐れがある。状況が許せば、母都市の近くにニュータウンをつくり、集団で移転する方が望ましいかもしれない。
しかしながら、漁村集落は海や港とのつながりが重要で、現地を移動する事が出来ない。斜面や小規模な平地を上手に使って、生活圏のつながりを保ちながらクラスター(ブドウの房)状に住宅地を配置していく事が望ましい。漁村の原風景のような集住形態の復活、地中海型の斜面住宅地、森の中に埋もれた別荘地タイプ等、多様な住宅地をその土地々に合わせてきめ細かく設計していく事が必要になる。
第二に、土地の制約が大きいこれらの地域では、仮設住宅と復興市街地を区別して考える事は色々な側面で問題を持ち、合理的でないと考えている。
阪神大震災では仮設住宅の孤立死が問題になった。旧居住地から離れた仮設団地に抽選で入居した高齢者たちは、身近な知人もいなく、仮設住宅の中で孤独な生活を余儀なくされ、亡くなっても発見されないという事態を招いた。中越地震の時は、その事を踏まえて、山古志村の全村移転仮設団地は一ヵ所にまとめられ、福祉系の施設も組み込まれた。今回の仮設住宅対応を見ると、集落単位で整備している所もあれば抽選方式の所もある、仮設住宅を造らずに民間アパートの借り上げで全てをまかなおうとしている所もあるなど、各県・各自治体でバラバラであり、阪神の二の舞となる危険もある。「仮設住宅は単なる住まいではなく“復興まちづくり協議の場”だ」(東京経済大学森反教授)という指摘もあり、地域をバラバラにしない事が重要である。
このような視点で見た時に、被災した居住地の近くに仮設用の土地を手当する事は難しい三陸地域では、そのまま本設の住宅地の一部として整備していく事が二重投資を避ける上でも適切だろう。また、現地材を使った木造仮設住宅をつくり、そのまま本設住宅の一部として払い下げるようにすれば、高齢者など資金負担力がない人達にとっても生活設計がしやすくなるのではないだろうか(東北発で、上記コンセプトの仮設住宅の提案もある)。
第三に、まちづくりや再建築をコーディネートする“人”の問題がある。復興まちづくりをスムーズに進めるためには、上記の整備手法を含めた「土地問題」と「財源」と共に、地域住民と十分に話しあい、きめ細かなまちづくり計画を立てていくための「まちづくりコーディネーター」が重要になる。319の漁港(集落)が被害を受けており、都市部を幾つかの地区に分けると、延べ400人近い人材が必要となる。さらに16万棟近い建物が破壊されており、これらの再建築は大きな仕事である。阪神ではプレハブメーカーの住宅展示場のような街が出来てしまったが、東北の風土に合ったまちの再興を目指してもらいたい。これは地元の建築家の仕事だと思う。プレハブメーカーを排除するのではなく、企画コンペを実施して地域毎の“建築コード”を提案すれば街並み景観が整うだろうし、各家の思い(歴史のかけら)を大切に残すための建築相談などはぜひ実施してもらいたい。取り壊し予定の家から、透かし欄間や床柱など家の想いが宿るものを保存しておく事を早急にアドバイスしたらどうだろうか。
■ 次に備えた制度・人・システムの課題
被災への対応は過去への問題ではなく、迫り来る東海・東南海・首都圏直下などの地震に備えた、未来への仕組みづくりでもある。
先ず、自治体行政において、リスクを分散し、BCP(事業継続計画)を考えた体制整備が必要である。地球温暖化や生物多様性などの「環境」問題と大規模自然災害に備える「防災」問題は、持続可能な自治体行政の両輪である。また、共に単独の自治体内で完結する事はできない広域連携が求められる課題である。例えば、環境政策ではエネルギー政策などの広域連携が必要であるし、BCPには災害時の市民連係・行政連携を考えた都市間交流等の項目が欠かせない。
現在、災害復興時の国の関与を強化する事が検討されているが、被災地を国の直轄領にすべきではなく、あくまで「自治体主権・自治体連携・自治体支援」という枠組みで考えるべきである。これまで姉妹都市の締結などは偶然的な要素が多かったが、防災協定などの都市連合協定を意識した都市選定が必要だろう。しかしながら、被災時には姉妹都市に頼るのではなく、全国的なネットワークで自治体連合が支援すべきで、特に、余力があり、行政能力の高い大規模自治体が、連係して被災自治体を支援する仕組み・制度を早急に作ることが必要である。
第二の課題として、被災地(浸水地)の「土地問題」がある。地震では従前地に居住する事が前提になっていたのであまり意識されていないが、復興構想会議の提言は「浸水区域を国が買い取るべきではない」という基調で書かれ、国の方針もまだあいまいである。復興まちづくりの事業手法(土地区画整理事業や集団移転事業)の中で実質的な国有化に近い解決策となるという意見もあるが、被災者が生活設計を進める前提となる問題であり、早急に明快な方針を出す事が必要だと思う。土地の買い上げ・交換を希望する人だけでなく、その土地を捨ててどこかに転出してしまう人も少なくないと予想され、これらの土地の受け皿(必ずしも国による買い上げを意味しない)が必要である。人口減少社会に入ったことで同様の事が起こりえて、研究しておく必要があろう。
そして、無数の「まちづくり会社」をつくり出す事を提案する。まちづくり会社は復興構想会議の提案にも載った重点事項で、当初、自治体長を社長とする自治体(官)に替わって復興まちづくり事業を担う組織(民)を想定していたが、現実には色々なタイプが想定でき、また、必要な事が分かってきた。
第一のタイプは上記の首長を代表とするもので、復興事業予算を地元に落とすための受け皿となり、行政ではやりにくい複数年次予算で迅速かつ小回りがきく実行会社である。5年から7年程度の時限的なものにするのが望ましい。
第二のタイプは、地域で起きてくる様々な事業や起業者たちを支援する中間組織で、特に、各種の復興資金を地域に取りまとめ、それをニーズに応じて再配分するような「マイクロ・ファイナンス」組織である。行政主導ではなく、地域の金融機関や主要企業が中心になって、地域ブロック単位ぐらいで出来る事が望ましいだろう。民主導で出来たボランティアセンターの発展形を考えるのがイメージしやすい。
第三のタイプが、浸水地など共有化した土地の受け皿となる法人である。トラスト組織として、平常時の利用には問題がないこれらの土地の活用計画を立て、事業化し、管理していく。提供(放棄)された土地の所有権を法人化(一種の株化)することで、将来権利関係が輻輳化する事を避けると共に、提供者たちがサポーターとして地域とのつながりを持ち続ける切っ掛けになるだろう。この法人に、浸水しブルドーザーで取壊す対象になっている100年民家や透かし彫りの欄間、良く磨かれた床柱など家の宝物の保存(古民家バンク)機能を持たせれば、街並み再生のためのストック保存も可能となろう。
■ メモリアル -地域住民の鎮魂を共に進める
最後に、東日本大震災を風化させない事が重要である。過去の津波経験が風化し、自然をねじ伏せる技術に過度に依存した社会を造り上げてしまった事が、福島原発事故や今回の津波被害が拡大した根本原因にあると考える。
亡くなられた方々への鎮魂を地域で共有する折々の鎮魂祭。原風景や文化の記憶を継承する新しい祭りを創造してもよいのではないだろうか。

