浅田次郎の「母の待つ里」を読んだ。
新聞の書籍広告で見付けて図書館に貸出予約を入れたのが半年くらい前。
今般ようやく順番が回って来たので急いで借りて読んだ。
あまり書くとネタバレみたいになってしまうのでナニなのだが、実の母とか育ての母とかの「現実に何らかのつながりがある母」が待つ里の話ではない。
私も最初はそのような話を想像していたのだが、そうではなくて、一種のテーマパークのような「母の待つ里」を提供してくれる近未来ビジネスの話なのであった。
その「里」を利用するには結構なお金が掛かるのだが、「里」には、我々の心の中に生きる「母」を演じてくれる人、菩提寺の和尚役の人、幼馴染役の人などがいて、自分がまるで本当に母の待つ里に帰ってきたような気分に浸ることができる。
母を知らない人、母を早くに亡くした人、母の記憶がない人、様々な事情から「母」に会いに行くことができない人。
そんな悩みと淋しさを抱えた現代人のために発案されたセレブ対象の米国由来のサービス、という設定で話は展開していく。
子どもを虐待する母のニュースが毎日のように報じられる今、大いに考えさせられる部分もあり、非現実的な感じもしはしたが、しかし十二分に涙腺を刺激してくれた。
人から勧められた本を読んでも、勧めてくれた人とは置かれている環境とか焦眉の悩みとかが違うので面白くもなんともなかった、というのはよくある話である。
しかしそれでもなお、年齢や男女を問わず泣かせてもらえると確信しますので、よろしかったら一度手にとって読んでみてください。
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