いつも温かくて優しいキミが
「久し振りに人の優しさに触れた」
って言って目を潤ませた
 
 
 
その人自身は溢れんばかりの優しさを持っているし
優しさに触れていなかったわけではないのだけれども

どこか疲れた顔をしていたから
きっと
気付いたり受け取ったりする余裕もなかったのだと思う
 
 
 
「大丈夫?」って訊いたところで
「大丈夫!」って無理に笑わせてしまうそうだし

「少し休んだら?」って言ったところで
配ったり届けたりすることをやめたりしないキミだから

僕はそっと隣に居ることにする
 
 
 
ただ空を見上げて一緒にぼーっとしたり
ぽろぽろ零れてくる言葉を受け取って紡いだり
僕のなんてことないアチャチャな話を聞いてもらったり

少しずつ「コーヒーが美味しいね」「良い天気だね」って
君は笑ってくれたなぁって思っていたら
「もう帰らなきゃ」っていつもの逞しい表情に戻る
 
 
 
「ありがとう」ってキミは言うから
「僕は何もしていないよ」って答える
「何もしていないけど、確かにここに居るからね」って伝える

「ありがとう」ってまたキミは言って
僕も「ありがとう」ってキミに言う

「吸ってー」の掛け声でふたりで深呼吸して
「またね」ってお別れする
 
 
 
離れた背中に聞こえないくらいの声で
「自分も大切にね」ってつぶやく

聞こえたみたいにキミは
振り向かずに片手を上げる。