「で、いつのまにそういうことになったの?」
エマのお父さんが出て行ったあと(正確にはエマに追い出された)、僕は皆に説明を求める。するとシンが酷くめんどくさそうに話しくれた。
「エマが一緒に行くことになりました。役割は勇者様のサポートです。以上」
「終わり!?何それ!」
雑な説明に声を上げるが、シンは本当にそれ以上言う気は無いらしくさっさと部屋を出て行った。
「え!ちょっと!シン!?」
「姫様のためにもできるだけ早くこの街を出ます。体調を早急に整えてください」
「あ、はい」
そう言われると大人しくしていなくちゃいけない気分になる。卑怯だ!と叫びたかったが怒られそうで言えない。そうヤキモキしている間にシンは出て行ってしまった。
「なんだよ……逃げるみたいにいなくなって」
「クククッ!実際に逃げたんだよ」
「?どういうこと?」
おじさんが面白そうに笑いながら言うものだから、僕は首を傾げた。エマもなんだか困ったように笑っているので余計に謎だ。シンがどうして逃げて行ったのか皆目見当もつかない。
「私のお父さんのためなの」
「?」
エマが答えてくれるが、それだけじゃ僕には理解できない。何でエマが照れくさそうにしているんだろう。
「今回、『この街の魔物を倒して、姫様奪還の情報収集に協力すること』がお父さんのことを報告しない条件だったでしょ?」
「うん」
「シンはそれを守るって言ってくれたんだけど、お父さんの方が納得できなかったの」
「え!?」
「お父さんは、ずっと苦しんでた。どうすればあの時の過ちを償えるのかってずっと苦しんで苦しんで……街の皆に役立つ発明をすることで少しは楽になれたのかなって思っていたけど、そんな考えは甘かったみたい。お父さんの苦しみはずっと続いていて、シンに投降を申し出たの」
「え!でも、そんなことしたら……」
その先は慌てて飲み込んだ。死刑なんて、本人の前で言えない。
「きっと、酷いめに合う。私、そんなの耐えられない。だからやめてって言ったの。でも聞かなくて……困っちゃうよね。折角まるく収めてたのに」
お父さんの苦しみは理解できない。でも、エマの苦しみはその表情から感じることができた。勝手だよ。エマの気持ちを考えないで……。
「だからシンが提案したんだ」
『国王は今、たった一人の娘である姫を誘拐されて酷く心を痛めております。王の心を癒すのはあなたの投降ではなく、姫様が無事帰還することです』
『つまり、姫様を無事に救い出す手助けをすればいいというのですか?』
『はい。しかし、それだけではあなたは納得しないでしょう。なので、王と同じ痛みを味わっていただきます』
『と、いいますと?』
『私たちの旅に、あなたのたった一人の娘であるエマさんに同行していただき、協力してもらいます』
『!?』
『娘が魔王の部下との死闘に赴く父親の苦しみは、娘を誘拐された父親の痛みと変わりないでしょう。あなたには父親として、苦しんでいただきます』
『それは……』
『これは罰です。あなたに反対する権利はありません』
『……わかりました』
「ってなったわけよ」
おじさんが二人の口調を真似て会話のやり取りを再現してくれた。
シンはきっとエマの気持ちが解かったんだと思う。家族を失いたくないって気持ち。だから『エマ』と同じ苦しみを味わってほしくてそんな風に言ったんだ。
やっぱりシンはかっこいい。
「わかった!エマのことは僕も守る!」
「ほ~!勇者らしいことを言うようになったじゃねえか!」
おじさんが頭をグリグリと撫でてきた。これ、結構痛い。
「痛いよおじさん!病み上がり!」
「そう言えばそうだったな!悪化させたらシンに怒鳴られるぞ」
「わかってるよ!」
シンの足手まといにだけはならないようにしなくちゃ。そのためにやることは体力を戻すこと!つまり……
「よし!ご飯食べよう!」
「あははは!勇者様、面白いね!」
「だろ?まだまだケツの青いガキだぜ」
「青くないよ!」
女の子に変なことを言わないでほしい!
ちょっと本気で怒ると、おじさんは軽く謝って出て行った。
「へいへい、すまねえな。ほんじゃ飯もってきてやるよ」
おじさんの後を追ってエマも出ていく。やっと一人になれたと息を吐いていると、ひょっこりとエマが戻ってきた。
「どうしたの?」
「……ありがとう」
それだけ言ってエマは今度こそいなくなった。廊下をパタパタと走る音が遠のいていく。少し耳が赤くなっていたのは気のせいだろうか。
僕が何かしたわけじゃない。
きっとあの言葉はシンに伝えてほしいって意味だと思う。
でも、年頃の女の子のあんな顔をみてグッと来ない男はいないわけで……
「ん?どうした坊主。寒いのか?」
お盆を持って帰ってきたおじさんに不思議そうに言われる。
「……なんでもない……」
頭まで被った布団はまだ脱げない。顔の熱が治まるまで無理だ。おじさんにバレたらきっとバカにされるから。
「はやく体調戻せよ。せっかくレベルも70まで上がったんだ。主戦力としてバンバン戦ってもらうぜ」
「うん……ん?」
僕は少し布団から顔を出しておじさんを見上げる。それで言いたいことが分かったみたいでおじさんはニヤリと笑った。
「俺たちが苦労してたボスを倒したんだぜ?たぶんこれだけじゃ飯が足りないかもな」
おじさんが持ってきてくれたのは大皿いっぱいに盛られたオムライスだ。元の世界じゃ大食いレベルの量だけど、空腹を自覚したお腹はグゥと鳴り、足りないなんて命令を脳に送っている。
そんなことないって思ったけど、気が付けば二皿目に突入していた。
なんとなくノリで言ってしまっていたけど、できる気がした。
(エマのこと、僕が護るぞ!)
少しシンに近づけた気がして誇らしかった。
つづく?