ずっと一緒にと誓ったとき、あなたは私に笑って頷いてくれた。
私も何も考えず頷いた。
もしこんなことになるなんて知っていたら、頷かなかったのに……


「死んでも 君のこと 護るから」


そう言って出ていく彼を、私は見送ることしかできなかった。
私は彼の残した言葉に黙って涙を流した。
「『死んでも』ってなによ」
村から離れた少し高い丘の上に、彼や、彼と一緒に戦った人たちのお墓がある。
村人みんなで作った墓。
ほとんどが名前だけの、悲しいお墓。
国同士の戦争で、こんな小さな村の人たちも駆り出された。
男手がなくなって女と子供だけで田畑を耕す。
手が回らなくてほとんどの畑は放置状態。私たちでできる範囲で協力してやっている。
どうして帰って来てくれなかったの。
どうして戦争なんてしたの。
そんな愚痴ばかりが飛び交っている。
「『死ぬ気で』だったらまだ手を振るくらいはできたのに……」
戦況は劣勢の中、彼を含めた村の男たちは出て行った。
村人のみんなが解っていた。
生きて帰ってこれないだろうって……。
実際、村には次々と戦死の連絡が届いた。
私の家にも……。
遺物で届いたのは彼が被っていたという帽子だけだった。
「軍の帽子なんて……出発の日以外見たことないよ」
だからか。私が思い出すのは出発する日の彼の姿ばかり。
悲しい笑みを浮かべて門をくぐっていった背中が目に焼き付いてる。
それでも生きている姿だからって、思い出すたびに胸が温かくなる。
それが余計に虚しい思いを掻き立てる。
「でも、守ってくれて、ありがとう……」
彼の帽子が届いて数日後だった。
村の上を戦闘機が飛んで行った。
窓から見えた小さな機体は母国のものか、敵国の物か判断できない。
ただ、あなた達の死を悼んだ村人は誰も外に出ていなかった。
隣町が空襲を受けたのはその直後だった。
「みんなに感謝して、このお墓を立てたの……気に入ってくれた?」
あなた達が護ってくれたんだと、村のみんなは喜んだ。
感謝の気持ちを込めて大きな石で墓石を作った。
あなた達だったらもっと大きな石を持ってこれたのかもしれない。
でも私たちにはこれがやっとだった。
「みんなの名前も彫ったのよ」
それぞれの家族が遺族の名前を石に刻んだ。
私も泣きながらあなたの名前を彫った。
石はみんなの名前でいっぱいになった。
そして届けられたわずかな遺品を墓の下に埋めた。
墓ができた次の日、戦争は終わった。
「あなたにも見せたわね。新聞……やっと終わったって、村中大騒ぎだったわ」
お墓の前でみんな泣いた。
戦争が終わって嬉しいはずなのに、どうしてもう少し早く終わってくれなかったのか悔しくて泣いた。
そうすればみんな居ただろうにって、悲しくて泣いた。
たくさん泣いた。
あなたの帽子が届いた日以上に……ながく……永く。
「もう、それから5年も経つのよ」
暗くて辛い5年間だった。
生活は全然良くならず、村でできた食べ物は売りに出せるほど量もなかった。
食糧の配給はしてもらえたけど、農業は力仕事が多くてお腹を空かせて眠る毎日だ。
そして、ときおり感じるあなたからの視線が私の胸をかき乱した。
「この丘から感じるのよ。あなたが見てるって。言ってくれたものね。『死んでも 護る』って。
まだ、守ってるの?」
温かく、優しい視線が飛んでくる。
挫けそうになったときほど、近くで感じる。
今も……隣にいるような気がする。
それが、嬉しくて、辛かった。
「お願い。もう、いいのよ?もう、楽になって」
戦いで傷付いた体を引きずっているのかもしれない。
話す相手もいなくて独りでいるのかもしれない。
いまだに嫌いだった銃を握っているのかもしれない。
隣に立つあなたが幸せだなんて思えない。
「そしてもう一度、生まれて、傍に来て……
美味しいもの、食べれる世界になってるから。
もう、銃を持たなくてもいい世界になってるから。
お国のために死ぬのが美学なんて世界じゃないから。
とっても、とっても自由だから。
あなたが作ってくれた世界に、戻ってきて……もう一度……会いたい……!!」
見えないあなたじゃなくて、抱きしめるあなたに会いたいの。
護ってくれてありがとう。
だから、もう、大丈夫、だから、どうか……

――どうか安らかに眠ってください――

END