俺には変わった友達がいる。
1人は……あ。変わった友達は二人いるんだ。
1人目が羽賀って奴で、小説大好きな本の虫眼鏡だ。
小説といっても小難しいものじゃなくて「ライトノベル」とかいうのを読んでいる。
可愛い女の子のイラストが表紙になっているのがほとんどだけど……俺は漫画の方が好きかな。
で、もう一人の変人が野々村だ。こいつは小太りしている体系に反して運動神経がいい。
動けるデブって言われている。趣味はアニメ鑑賞だ。漫画の方がいいと思うけど。
この二人、見た目と趣味だけなら変人と呼ぶほどではない。
「羽賀よ。死活とはどういう意味だろうな」
「しかつ?死活問題の死活かい?」
「左様。死活という言葉を近年使われるようになった【婚活】【恋活】と同種と考えると、【死活】は【死ぬための活動】ということになる」
「確かに」
「事実。【死活】と言って葬儀などの手配や遺言を残すという活動をするご老人たちがいるそうだ」
「なるほどね。でもそれならもう答えは出てるじゃないか。野々村はそれでは納得できないのかい?」
野々村に関してはまずしゃべり方が中二病臭い。
そして会話の内容が俺たち一般人にはどうでもいい疑問ばかりなんだ。
話しかけられた羽賀は巻き込まれているようにも見えるけど、今日はたまたま野々村発信なだけで羽賀だって同じような話しかふらない。
「うむ。これを踏まえて【死活問題】という言葉について考えた。
誰もがこれを【負】の言葉として使用する。解決しなくてはいけない問題という意味でだ。
だが、この【死活】を先ほどと同じ意味で考えると寧ろ解決しないほうがいいのではないかと思えてしまうのだ」
「なるほど。確かに。それには一理ある」
いやいやいや。遺言とかの【死活】と【死活問題】を比べるなよ。
【死活問題】って言葉はずっと昔からあったもんで、【死活】は最近できたもんだろうが。
【死活】なんて流行りに乗っかってできた言葉なんだから気にする必要ないだろうが。
「じゃあ野々村。こう解釈するのはどうだろう。生きていること自体が【死活】なんだと」
羽賀よ。お前は何を言っているんだ。
「どういう意味だ?」
「生きているからこそ【死】ぬんだよ。君の言う死への活動、【死活】は生きることを意味するんだよ」
「ふむふむ」
話が一気に重くなってないか?迷走していないか?大丈夫かこの二人……。
「つまり【死活問題】は、生きることに問題のある状態なんだよ。だからネガティブな言葉として私用するのは妥当だと思うんだけど、どうだろうか?」
「なるほど!それは実に面白い解釈だ。流行りの【死活】も生きているうちの活動だと解釈すれば説明が付く!」
「「よし!!」」
何がよし!だ。
そもそも【死活問題】の【活】は【活(い)きる】って意味だ。
そして年寄りたちがやる【死活】の【活】は【活動】って意味だから、そもそも違うだろう。
「という意見でまとまったのだが、敦はどう思う?」
「そうだね。一般人・敦の意見も参考にしよう」
一般人で悪かったな。
「俺は……」
「おしゃべりやめ~。授業始めるぞ~」
先生の合図で俺たちは話を止めて正面を向いた。
クラス委員の号令で形だけの挨拶をして授業がはじまる。
「まずは。先週やった中間を返す。名前を呼ばれたら取りに来い。……安藤!」
クラスが再びざわめきだす。
野々村と羽賀も騒ぎに乗じて話していた。
「今回は何点?」
「80点を狙った。羽賀は?」
「同じ」
「……またそんな中途半端な数字を……」
「成績は4.3あれば推薦を貰える」
「つまりそれ以上は必要ないんだよ」
羽賀がドヤ顔で言っているが一般人の俺にはその発想が理解できない。
テストって先生が生徒の理解度を把握するためのものだから満点を狙うのが当然だろうが。
自分の成績を計算して点数を狙うものじゃない。
「野々村!」
そう言っている間にもう野々村の順番になっていた。
奴が先生から受け取った紙には【80】の数字がある。
変態が。
「羽賀!」
そしてしばらくして羽賀だ。
先生から受け取ったテストを見て肩を落としている。
「どうしたのだ?」
「……計算を失敗していたよ。83点だった」
「気にするな!問題ない!」
何で点数の低い野々村が羽賀を慰めているのか……この図は事情を知っている俺以外は謎だろう
「最後。和田!」
出席番号最後の俺が呼ばれた。
先生から用紙を受け取る。
「さすがだ。また100点だぞ」
「どうも」
頼むから俺の点数を読むのをやめてくれないだろうか。
俺は普通に勉強しているだけだ。
それでどうして先生から期待されて、クラスの連中から変人を見る目で見られないといけない。
俺より変わった奴がこのクラスには二人もいるというのに……
誰もその事実を知らない。


END