*この物語はフィクションであり、登場する人物、団体は全て架空の物である。



私の家は祖父の代からクリスチャンでありました。しかし、家の中では伝統的な慣習のままで、父や兄と一緒に食事する事は許されず、私は母と台所の隅で食事をするのが常でした。
私は読者が好きでして、家では本を読むか勉強するかという生活をしていました。そのお陰という訳ではありませんが、R女子大に合格した時は、普段女に学はいらないと申していた父も、大層喜んでくれました。
私は、入学すると女子寮に入りました。二人部屋でAちゃんという同級生と一緒でした。私は元来引っ込み思案で、友達を作るのが得意ではありませんでしたが、Aちゃんはとても気さくな人で、すぐに仲良くなる事が出来ました。夏休みが終わり後期日程が始まった辺りからAちゃんの外出が増えました。ある時は何日も帰らない事もあり、どうしたの?と尋ねると、Aちゃんは、セミナーに行っていたと言いました。私は最初、恋人でも出来たのではないかと心配しましたが、Aちゃんの変わらない様子に安心したりもしました。
年が明けて、Aちゃんから「凄い聖書解釈の勉強会があるんだけど、あなたも参加してみない?」と誘われました。私は小さい頃から聖書を読んでいたので興味が惹かれたのと、何よりもAちゃんが熱心に誘ってくれたのが嬉しくて参加する事にしました。
Aちゃんと一緒に訪れたのは、一風変わった教会でした。そこには、礼拝堂があるわけではなく、前に大きな黒板があり教室そのものでした。
まだ、朝の7時を回ったばかりなのに、部屋は人で埋められ、冬場であるのに人いきれで窓が曇るほどでした。
私は何故かAちゃんと教卓の真ん前に通されました。やがて司会者が現れて皆で聞いたこともない讃美歌を歌い始めました。隣りのAちゃんも一生懸命歌っていましたので、私も下を向きながら歌うふりをしていました。
大きな拍手と共に、随分と痩せた方が教壇に立ちました。すると、その方が口を開くと、とても大きな声で話し始めるので、びっくりしてしまいました。その方は初め神様がこの世界を作った話しをされ、その後創世記の失楽園の解釈の話しをされていました。
Aちゃんはとても熱心に聞いていましたが、私はその時はあまりピンと来ていませんでした。昼食が出て、Aちゃんが講義の内容を説明してくれて、改めてそういう事を言っていたのかと感心したくらいでした。Aちゃんは先生の事を主様と呼んでいました。
午後になると、イエスキリストのゲッセマネの話や十字架の話しをされました。驚いた事に主様は自分がまるで見てきたかのように涙を流し慟哭しながら、語られたのでした。
この時はいくら鈍感な私でも、この方がやはり主様なのかも知れないと思いました。熱い講義は時間を経つのも忘れさせ、気がつくと夜の9時を回っていたのでした。
「Aちゃん、大変!寮に帰れなくなっちゃう!」
「大丈夫よ。今日は泊まっていきましょう。」
「えっ、でも寮長や先生に怒られちゃうんじゃない?」
「それも大丈夫。だって寮長も先生もこっちの人だから」
私は何だか狐につままれたような気持ちでした。
夜遅くに講義も終わり、簡単な食事をさせて頂きました。
何処で寝るんだろうなどと考えているとAちゃんと一緒に呼ばれ、別の応接室のようなソファがある部屋に通されました。そこに、気品のある女性が入ってきて、Aちゃんは交代で出て行きました。
最初は今日の感想などを聞かれました。そのうち、
「あなたは先生を見て、どう感じた?」
「凄いお話しをされる方で特別な方だと思います。」
そのように言うと、その方は、先生はイエス様が地上で成し遂げられなかった摂理を代わりになされる再臨主様なのと言われました。
私は充分理解は出来ていませんでしたが、相手の話しに合わせていました。
「今日は主様が特別にあなたにみ言を賜って頂ける事になりました。」
私はそのように言われても、何故私が?という思いに包まれていました。