小田桐早苗先生 コラム連載 第2回

兄弟姉妹について考える②

川崎医療福祉大学
小田桐 早苗

皆様、こんにちは。さて、第2回目のコラムです。今回からは、ライフステージに沿って、兄弟姉妹の気持ちを考えてみましょう。
前回にも少し書かせていただきましたが、兄弟姉妹は、親よりも長い時間を家族として障がいのある子と過ごす立場ともいえますね。私たちがそうであったように、兄弟姉妹のどの子も歳を重ねる中で、成長します。成長するにつれて、障がいのある兄弟姉妹への気持ち、親への気持ち、周囲への気持ちも変化すると言われています。その経過の中では、うまく言葉にできない思いもあるでしょうし、時が経ってみると異なる見方ができること
もあるのだと思います。
今回からは、そんな兄弟姉妹のライフステージに沿って、考えていきましょう。

■幼児期の兄弟姉妹の気持ち

 こんな話を、障がいのある子の兄弟姉妹が話したことがあります。
「お母さんが泣いてるの。どうしたらいいの?お兄ちゃんのことで泣いてるの。」
この子は、年長さんの女の子でした。この女の子のお兄ちゃんは重度の知的障がいを伴う自閉スペクトラム症です。
この女の子は、お家の中で時々涙を流しているお母さんに気が付いていたのです。
「おばあちゃんのお家に行ったときに、お母さんが怒られちゃうの。それでね、お母さんが泣いちゃうの。あとね、お母さんが大きなスーパーにお買い物に行った時に、お兄ちゃんが大声を出したの。お母さん、お兄ちゃんに怒ったんだけど、車の中でいっぱい泣いて
たの。」子どもって、こんなに親のことを見ているんだなぁと思ったことを覚えています。そして、大好きなお母さんのことを、こんなにも思っているんだなぁとも思いました。この女の子は、年長さんですから、背景の詳細部分までは、気が付いていないかもしれません。ただ、お母さんが泣いているという事実に、子どもながらに胸を痛めているということなのだと思います。理由はわからないけど、大切なお母さんやお父さんが泣いているということへの心配なんです。

 ここで私がお伝えしたいことは、「お母さん、子どもの前で泣かないで」ということではありません。誰だって涙があふれてくるときはあるだろうと思います。感情があふれて、場所を憚る余裕なんてないときもあると思います。そんな日があったって良いんです。そんな日々の中で、障がいのある子の兄弟姉妹が、お母さんやお父さんの気持ちに気が付いた時は、子どもが安心できる言葉をかけていただけたらいいのかなと思います。「ありがとう」「大丈夫」「お母さん、ちょっと泣いたら元気出たんだよ」などなど。そして、親自身が自分の思いを話せる場所を大切にしてください。家族、親の会の仲間、支援者など、皆さんにとって大切なつながり、話せる場所で思いっきり話していいんです。
 障がいのある子の兄弟姉妹が幼児期の時は、障がいのある子へのサポートも始まったばかりのことも多く、家庭の中が「てんてこまい」ということは良くあることだと思います。何もかもが落ち着いてできなくても全然OKなんですよね。

 さて、もう一つの話題です。あるお母さんから、こんな質問をいただいたことがあります。「障がいのある子の弟が、「どうしてお姉ちゃんは、大きな声で騒ぐの?」「あんなことしちゃいけないのに」と言うんです。私は、どう答えたらいいでしょうか?」というものでした。
障がいのある子の兄弟姉妹たちもまた、社会経験を通して様々なことに気が付いてきます。純粋な疑問として親である皆さまに聞くかもしれないですね。ここで兄弟姉妹が聞こうとしているのは、「どんな風に考えればいいの?僕はどうしたらいいの?」かもしれない
と思います。皆様が障がいのあるお子さんの行動をどのように考えているか、その視点を少し説明してほしいと思うのです。「きっと、大きな音が怖かったからだね。怖い時はドキドキして、助けてーって声がでるときあるよね」や「うれしかったのかもしれないね。」など解釈のヒントを伝えることが大切かもしれません。
 
 幼児期は、沢山の何で?に溢れ、そして、大切な兄弟姉妹が他の子と少し違うのかもしれないと気が付いてくる時期でもあります。兄弟姉妹の成長の一つともいえますね。ぜひ、お子さんと一緒に考えてみてください。「どうしてかな?お母さんはこう思うよ」など、子どもたちが考えるヒントを教えていただけるといいなと思います。
 そして、もし障がいのある子の多様な言動の中で、兄弟姉妹自身が困っているような状況の時は、兄弟姉妹と一緒にその解決方法を考えてみてください。兄弟姉妹の大切なものを、障がいのある子が使ってしまったり、壊してしまうことがあるかもしれません。そんなときは、兄弟姉妹のために大切なものをしまえる場所を用意してみてください。お父さんやお母さんが、一緒に考えてくれること、兄弟姉妹自身が大切なものを大切に考えてくれることは、兄弟姉妹にとってどれだけ安心できることだろうと思います。そう、もし兄弟姉妹たちの大切なものがうまく守れない状況になっているときは、大人だけ届く高い場所を保管場所にするなど、一緒に考えていいんです。「困ったね、嫌だったね。どうする
か一緒に考えようか」と、気持ちに寄り添い、答えを探してみましょう。
 今回は、ここまでにしたいと思います。皆様が障がいのある子の兄弟姉妹を大切に思うお気持ちを大切にする、そんなコラムにしたいと思っています。次回も、どうぞよろしくお願いいたします。