今年の梅雨はいかにも梅雨って感じの雨降りが続いている。

洗濯物は全然乾かないし、外へ遊びに行けない猫は毎日退屈そうだ。

 

来月の大学創立祭で新しく披露する曲を私が歌うことに決まって1週間。合間を見て練習してるけど、どうもしっくりこない。

バイト中もそのことを考えてたら、気になったのかよねさんが声をかけてくれた。

 

「なあ、てち。どうしたん?さっきからずっとむつかしい顔してさ。」

『はあ…。来月の創立祭で1曲リードヴォーカル取ることになったんですけど。よねさんは唄が上手いから羨ましい…。』

バイトの合間もお客さんがいない時は、よねさんはよく歌を口ずさんでる。

がっつり歌ってるわけじゃないけど音程がしっかりしてて声が厚いから上手いのが良くわかる。

 

「凄いやん!何歌うん?うちも予定空けて聴きに行くわな!!」

『サイレントマジョリティーなんですよ。ほんとに私なんかでいいのか練習してるうちに自信なくなっちゃって…。』

「うちもカラオケで時々歌うわ。めっちゃええ曲やんね。てちの声合いそうやけどなぁ…。」

よねさんが歌うサイレントマジョリティーはちょっと気になるなと思った。私と声の質が結構近いしね。

 

「なあなあ、バイト終わったらカラオケ行かへん?元々1人で行こうと思ててんけどな、せっかくやし練習兼ねててちも行こうや?」

『え?いいんですか。明日は授業午後からなんでせっかくだし行こうかな…。』

 

 

こうしてバイト終わりによねさんとカラオケに行くことになった。よねさんが誘ってくれたのがなんか意外で、断ったらもったいない気がした。

 

近くのカラオケに行って受付を済ませる。受付の対応をしてくれたのはなんと長沢さんだった。

「うちも前ここでバイトしててん。深夜のシフトが多いからコンビニに替えたんやけど。なーことはここで知り合ったんよ。」

’てち、久しぶり。ゆっくりしていってね。お陰様でてちを題材にした漫画も順調に描けてるから。’

『はあ…。た、楽しみにしてますね。』

そういえばそうだった。どんな作品になってるんだろう…。ちょっと不安。

 

 

久し振りのカラオケはとっても楽しかった。

よねさんは一青窈や湘南乃風を歌って楽しそうだったし、私も滅多に歌わない曲を幾つも歌った。

日付が変わったころ、お互いの飲み物が空になってたので注文をしようとした。

「あー、てち。うちが頼むから。さっきとおんなじのでかまへん?」

『ありがとう。私の方が近かったのに何かごめんなさい。』

「大丈夫やで!あ、もしもし。アイスコーヒーとオレンジジュース。あと、あれを。」

 

え?あれってなに???

 

 

ほどなくして部屋のドアがノックされて長沢さんが入ってきた。

後ろにあるのは…カート?何が乗ってるの??

 

先にジュースを持ってきた長沢さんを横目によねさんは部屋の電気を消す。

ぽかんとしてる私の前に運ばれてきたのは…

ケーキ…????

 

「てち、19歳のお誕生日おめでとう。店長に教えてもろてどうやってお祝いしよか考えとってん。割と自然な演技やったろ?」

’てち、お誕生日おめでとう。ロウソク点けるから思いっきり吹いてね。’

 

私が気づかないうちによねさんが入れてたハッピーバースデーの曲が流れる。

「’Happy birthday dear てーちー。Happy birthday to you~!!’」

自分でもすっかり忘れていた誕生日。

ありきたりなサプライズだけど、2人の気持ちがすごく嬉しかった。

 

不安な気持ちを吹き飛ばしてくれたよねさんには感謝しないとね。

 

 

よし、サイレントマジョリティー歌おう。よねさんに聴いてもらってアドバイスもらおう。

曲中の主人公のように、しっかり前を向こうと思えた夜だった。