おとしものごっこ その2
鍵事件(笑)があった翌日から少し雨が続いたので、私は林を抜けずに遠回りしてバス停に行っていた。靴が濡れる事ほど気持ちの悪いものはないからね。旅行に行った母は2日のつもりがどんどん増えて5日めにようやく帰ってきて、いつもの日常が戻った。父も私も料理をしないので、あの日の翌日に帰ってきた父が適当にお弁当や冷凍のおかずを買って来てくれて、それはそれで楽しかった。 雨続きでジメジメした林が乾くほどには晴天が続いたある日、私は朝に林を抜けてバス停に向かい、そしてまた夕方にバスを降りて数歩先の林をめざしていた。 と、そこにあの日出会った女の子が立っていた。あの日と同じ赤くて短いスカートから、羨ましいほど細い足が伸びている。 「ねえ、あたしをさがして!」女の子はキラキラした大きな目で言う。 「また会ったね、元気だった?」さがしてとは?と思いながら言うと女の子はもっと目をキラキラさせて 「ねえ!あたしをさがしてほしいの!あの日みたいに!あったよー!って!」探してほしい?あの日のようにあったよー!とな?ほほう!するってえと! 「ああ!かくれんぼのこと?」そう問いかけると可愛らしく眉をひそめ 「ちがーう!おとしものになりたいの!」ふむふむ。鍵が見つかった時、嬉しそうにしてたっけ。 「どうしてさがしてほしいの?」お友だちと遊んだ方が楽しかろうに。それともいじめられたりしてる?でも人懐っこくて明るいし何より可愛いからそれはないよね。 「ねえ!お願い!あたしをさがして!」首をかしげる私に、女の子はまたキラキラした目で迫る。 「いいけど、あまり危ない所には行かないでね」かくれんぼと同じだが、それは大人の余裕で口には出さずにノッてあげよう! 「いいの?わーい!じゃあさがしてね!」女の子は嬉しそうにはしゃいで・・・ ん? ん? なぜにニコニコしながらそこにいる! あ!そうか! 私は先に林に足を踏み入れて、ないものを探し始めた。 「んー!ここかな?」すると女の子がピッタリ私の後ろにくっつきながら 「 ないねー!」ふむ!やっぱりそうか!あの日と同じように落とし物を探す遊び、つまりおとしものごっこというわけだ。 「ここかなあ?」 「なあ~い!」 「じゃあここだあ!」 「なあ~い!」私たちはあっちをかき分け、こっちをかき分け、少しずつ場所を移動しながら、なあ~い!を楽しんだ。 ふと、女の子の気配が後ろから消えた気がして振り向くとやっぱり姿はなくて。 あれ? と、もうすぐ途切れる林の前方を見つめるも、いない。なるほど、ここからが本番か!うん! 「あれー?どこかなあ?」立ち上がって来た道を振り返ると、私はまた林の入り口に向かって歩き始めた。 「ここかな?」としゃがむと、不思議なことに女の子の気配がして 「なあ~い!」と答える。でも、姿はない。それでも、ここかな?を繰り返しながらあっちをかき分けこっちをかき分けて進んだ。やっぱり声は聞こえるが姿はない。私には、きっとあそこに違いないという確信があったが、まっすぐに向かうことはせず、あえてあっちをかき分けこっちをかき分けながら、ここかな?を繰り返す。可愛い声を楽しみながら。 そしてあの日鍵を見つけたあたりにたどり着いた。 確か、この木の枝だったよね!と少し見上げた私の目に、木の枝に腰かけて足をぶらぶらさせている女の子が映った。 「あ!あったー!」指を差して笑うと、女の子は嬉しそうに 「あったねー!」と、とびきりの笑顔でもっと足をバタバタさせた。 梅雨の林のたっぷりと湿気を含んだ空気が、バス停から吹く風にまとわりを解かれ、雲間から差し込んだ陽の光が女の子を照らした瞬間、私は見た。 この林は、もっともっと続いていて、その先には広大な野原が広がっていた。草むらに雨のしずくが幾千ものダイヤモンドみたいにキラキラと七色に輝いていて。 「見つけてくれてありがとう!」その声に夢心地のままうなづき返すと、女の子は光の中に吸い込まれるように消えて行った。 陽が陰り辺りがまたほんのり暗くなった。 「どこかなー?ここかなあ?」そっとつぶやいてみた。 が、女の子の気配も、声も、もうそこにはなかった。 あの女の子は、何だったのだろう? ゆ・・・・!!!! ちがーう! 可愛い声を思いながら心の中で否定してみる。 違う!だって私には見えたもの。 陽の光を背にした女の子のおかっぱの頭の上の小さな耳と、ふさふさのしっぽが。 そういえば名前も聞いていなかった。 なんて答えたかな? コン?笑笑 まさかそんなわけない笑 それから、私は林の中で落とし物をすることもなく、時々どこかなあー?とつぶやいてみても、あの女の子の気配を感じることもなく、こうして大人になった。 女の子との時間は私の中に今でもキラキラと息づいている。あれはきっと林の記憶なのかな?かつてそんな美しい景色があり、それを見ていて、そこに生きていた存在があったことを伝えてくれたのかもしれない。忘れないよ、忘れてないよ、ありがとう。 私は、私たちはかつてあった美しい大地の上に許されて生きているんだね。 言うなれば私たちも、宇宙からの おとしもの なのかもしれない。 こちらこそ、私を見つけてくれて、ありがとう✨✨✨✨✨ 読んで頂きありがとうございました💖