特権 | Kura-Kura Pagong

Kura-Kura Pagong

"kura-kura"はインドネシア語で亀のことを言います。
"pagong"はタガログ語(フィルピンの公用語)で、やはり亀のことを言います。

 神戸大学のバトミントンサークルの部員が合宿のため宿泊した旅館で故意に障子を破り、天井を突き破ったりしてその写真をSNSに投稿した、というのが問題になっている。

 神戸大学といえば国立大学だ。問題を起こした学生の周囲には

「勉強ができる。」「頭がいい。」

と持ち上げる人も少なからずいただろう。そういうことがこの騒動とも関係あるような気がして嫌な気分になる。

 

 今回の事件とは関係ないが、「一流大生」が事件を起こしたというと2016年に東大の学生、大学院生が他大学の女子学生にわいせつ行為をはたらいた事件を思い出す。

 姫野カオルコがこの事件に取材して『彼女は頭が悪いから』(文芸春秋・刊)という小説を発表した時には東大の学生や教員から大きな反発があったという。反発した人たちはこの小説が東大全体を悪く言っているように受け止めたようだが、そんなことはない。この事件では5人が逮捕され、そのうち3人が起訴されて裁判で執行猶予付きの有罪判決を受けているが、彼らは東大生であるとともに他にもいろいろな要因が重なって事件を起こしたことがこの小説ではそういうことがちゃんと描かれている。

 また、事件を起こした学生たちが自分より低い学歴の者を見下すところは、東大生に限らず様々な属性の者に当てはまる。

 

 この小説で、東大生の一人が通学する電車の中で高校の同級生と会う場面がある。この学生の出身高校からは毎年多数の生徒が東大に進学するのだが、その同級生は東大生ではない。すると、その学生は京王井の頭線の駒場東大駅(東大生の1,2年生が学ぶ駒場キャンパスの最寄り駅)で降りるとき同級生に

「ここはお前の降りる駅じゃないね。」

と言う。この場面で私は自分の恥ずかしい言動を思い出した。

 

 私は一浪で東北大学理学部に進学した。進学が決まった時、友人の何人かに電話でそれを報告したのだが、その時私はある友人を怒らせたのだ。

 彼は早稲田大学を目指して勉強したのだが高校3年の本番では早稲田に落ち、明治大学の文系学部に進学していた。彼と話をしていて、そのことに触れた時彼は怒り、

「お前のその言葉を聞いて電話を切ろうと思った。」

と怒った。その時私は私立だとか文系だとかを低くみていて、その本音を出したことに彼は怒ったのだ。  

 私はすぐに謝った。そして、彼は私が高校を卒業するとき大失恋して浪人生活に入ったことを知っていたから、それに免じて私を許した。

 その時、大学のことを鼻にかけることはするまい、と思ったはずだが、大学に入って数か月の間は恥ずかしい言動をなんどもやっていたな、と今になって思う。

 

 私は大学を卒業した後、同じ東北大学の大学院に進学したのだが、そのころこんなことがあった。二人の同期生が結婚にはカネがかかる、という話をしていて、私はそれを横で聞いていたのだが、一人の男が

「バカ私立大の女と結婚するとカネがかかる。」

と言ったので、私は

「学歴や性別で差別するのか!?」

と怒った。その男は女性を差別し、自分より学歴が低い人を差別している。

私が怒ってもその男は気に留めない。もう一人の同期生が

「お前は嫌いな話だろうけど、世間体って大事なんだぞ。」

というのだが、彼は私が何に怒ったのかわかっていないようだった。

 「バカ私立大の…」といった男は明らかに女性を差別していた。そして、自分より学歴の低いものを莫迦にして優越感を満たす。彼と件の東大生の感性は大して変わらない。

「頭がいい。」

と持ち上げられて気分がよくなり、人の痛みには気づかずに年齢だけは大人になった者は気の毒だ。