カレル=チャペクという作家を知る人は少ないかもしれないが、彼がつくったとされる言葉は小さな子供でも知っている。その言葉とは「ロボット」である。この言葉は彼の兄で画家のヨゼフ=チャペクがつくったとも言われているが、カレルの発表した戯曲『R.U.R.』で初めて使われるようになった。この戯曲は、労役用に作られた人造人間・ロボットが人類に対して反乱を起こし、人類を滅亡させる、という話である。
チャペクの有名な作品は他にもある。『山椒魚戦争』だ。SF小説好きの友人はこの作品を「SFの古典」と言っていた。
『山椒魚戦争』はこんな話だ。
東南アジアのある島で、貨物船の船長が高い知能をもった山椒魚たちと遭遇する。船長は、この山椒魚たちに真珠貝を採取させ、その見返りに護身用のナイフを供給する、というビジネスを思いつき、海運会社の社長とともにこのビジネスを立ち上げる。山椒魚が採ってきた真珠が多数流通し、真珠の相場が暴落すると、真珠採取会社は埋め立て事業へ商売替えする。そうして、山椒魚の労働力により広大な陸地が造られるのだが…。
海が埋めたてられ、広大な陸地が出来たと思ったら、今度は世界各地で地盤沈下が起こるようになった。埋め立て事業の拡大により、数の増えた山椒魚たちが自分たちの住処をつくるため反対に陸地を掘り始めたのである。こうして人類と山椒魚の戦争が始まった。ところが、人類たちは互いの国のエゴがぶつかり合って山椒魚たちに対し一致団結して戦うことができない。
陸地が次々と山椒魚たちにより沈められていく終盤の描写はまるで地球温暖化を予知しているようで不気味だ。ところでこの小説は1935~36年にかけて新聞の連載小説として発表された。この時期、ヨーロッパではナチスが台頭しており、チャペクはやがて来るであろう世界大戦に対する不安をこの作品にぶつけた。