脳出血で半身不随、

脳血管性認知症となった母は

周りにいっぱい毒を吐きながらも、

リハビリに励んでいた。


一方、家に1人残された父は

不満不平をいいながらも

がんばって生活していたが

母の主治医に精神科受診をすすめられ

物忘れ外来で診てもらうことになった。




父が、物忘れ外来を初めて受診した後

その病院に入院中の母のベッドにも

顔を出した。




相変わらず怖い顔だ。

目が据わっている。

どこを見ているんだろう。

何を考えているんだろう。




私の顔を認識するなり


「あんた、まだ持ってきてくれんとね。

 なんでね。あたしが死ぬるごと

 したいとね?」


(訳: まだ持ってきてくれないのか?

  どうしてよ?

  私が死ぬように仕向けたいのか?」



なんのことかと一瞬思ったが

すぐわかった。

匂いがプンプンしている。



キンカンだ。

キンカンをご所望だ。

ないと死ぬとまでおっしゃっている。



ついこの間

大瓶を買ってきたばかりだというのに

もうないですと?




失敗だった。



大瓶は母には手持ちが悪かったようで

倒して、布団や衣類に染み込ませて

減ってしまっていたのだ。




父「うわっ、くさっ!なんねこりゃ!

  キンカンばどげんしたとね!(怒)」


  (意訳: なんだこの臭いは!

   キンカンをどうしたら

   こういうことになるんだ⁉︎)



母「あたしゃなんもしとらん!

  あーもう嫌っ!すかん!

  なんもかんも嫌になった!」


 (意訳: 私は何もしてません。 

  ああもう嫌だ。そんな風にいうから

  何もかもが嫌になった)




キーキー

ギャーギャー

取っ組み合いになりそうな2人。




嫌になる



それはこちらのセリフです、母さん。