黒水社 | 数多久遠のブログ シミュレーション小説と防衛雑感

黒水社

PMC(Private Military Company)大手として、おそらく日本では最も有名(famousではない)なブラックウォーター社が社名を変更するそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20090216-OYT1T00078.htm


新社名は「ズィー」と報じられてますが、「Xe」と綴るようで、「ゼェー」の方がしっくりきます。
現在の社名は、創業の地となったノースカロライナ州とバージニア州の境にある湿地帯に、泥炭で黒く染まった水が湧き出すことから付けられた名前ですが、日本語に訳せば「黒水社」となり、まるで香港の秘密結社かと思えるほどです。
今時やくざの息がかかった企業でもこんな名前は付けません。

ですが、今回の社名変更は、単純に現在の社名が印象が良くないという理由ではありません。


最も直接的な引き金は、今年1月29日にイラク政府が発表した同社のイラク国内における営業禁止処分です。
http://www.afpbb.com/article/politics/2565819/3736667
この決定は、2007年9月16日に発生した同社社員による銃乱射事件により、多数の市民が犠牲になったことが理由とされています。
この事件は、同社だけでなく、PMC全体の規制を強めるべきという主張が広まる契機となった象徴的な事件であり、この決定はある意味見せしめの意味もあるのでしょう。


同社は売り上げの1/3をイラクにおける業務から稼ぎ出しており、この決定により、収益源が大きく減少し、経営的に非常に苦しい状況に迫られました。
ですが、これは自業自得と呼ぶべきもので、何かにつけ銃を持ち出すという、同社の業務姿勢に起因するものです。(上記2007年の事件は氷山の一角)


現在まで受け継がれている近江商人の理念に、「三方よし」というものがあります。この三方とは「売り手よし ・ 買い手よし ・ 世間よし 」と言われるもので、前2者については、いわゆるWIN-WIN、相互利益であり、商売では当たり前のものですが、最後の世間良しとは、現代風の言い方をすればCSRであり、コンプライアンスでもあります。
ブラックウォーター社は、この「世間よし」を軽んじたために、自分の首を絞めてしまったのです。


現在は、前記の事件を始めとした粗暴な営業スタイルが、直接的な武力を用いるPMCの規制強化をももたらしたため、ブラックウォーター社のような荒事を得意とするPMCにとっては、構造的な不況状態といえる状況なのです。


今後ブラックウォーター社は、軍事訓練などのコンサルティング業務や航空機運行に関するグラウンド業務などを拡大し、業態転換を図るということです。
社名変更は、同社にとって、PMCからPSC(Private Security Company)に脱皮するとの決意表明でもあるのでしょう。