たまに思い出す夢。


その街は全て真っ白だった。

家も、壁も、家具も、観葉植物も、人も、白くて硬い塩の柱になってしまっていた。

ほんの数年前までは生きていたその人たちを塩の柱に変えたのは当時その国と戦争をしていた国の新型ガス兵器。
ガス放出時の映像は有名で、苦しそうにむせていた人たちがフっと全てを諦めたように無表情になっていく。

そうして出来上がった塩の街は人間の健康に良い影響をもたらす成分を放出しているというのが科学的にも実証されたらしく、今では観光地になっている。

ボクは誰かとそのツアーに参加していた。

本当に全てが真っ白な街で、多分人の手が入っているのだろう、見学しやすい間取りになっていたり、アーティスティックな切り込みが入っていたりして、大規模な芸術作品と言われたら信じてしまいそうな出来だった。

それでも、机の上のずれたカップや、そここに生活の痕跡が見えて、ここで生きていた人たちの時がそのまま止まってしまったのがわかる。

ところどころに設置されたTVでガス投下の瞬間の映像が流れている。
広がる白い煙、怒号と悲鳴、逃げ惑う人たち、全てが停止する瞬間。
有名なあの映像だ。

その映像を見た観光客たちは非道なガス兵器に憤りながら、その街の成分でリフレッシュしている。
死んだ後もなお人を思うこの街の人々の優しさがこの成分を出しているのだ。
というのがソイツらの言い分だ。

その目は節穴なのか?

この映像のどこにそんな他人を思いやれるような死があるのか?

この街の人たちは殺されたんじゃないか。
わけもわからず、何が起きているのかさえ理解出来ず、生きようと逃げ惑って、それでも叶わずついには動かなくなったんじゃないか。

恨まないわけないだろう。

憎くないわけないだろう。

それで死んだ後もよりによって他人の健康のために観光地にされている。
これが辱めでなくてなんなのか?

そんなことを考えているうちにボクは気持ち悪くなってしゃがみこんでしまった。





って、辺りで目が覚めた。
実に不快な夢だった。
絵的にはポンペイの白い版て感じだった。
たしか天井はなかったと思う。