公正取引委員会の報告書が本日公表されました
早速ではありますが、芸能界に絞って簡単にまとめてみます
Point 1
芸能人の移籍制限は独禁法上の問題が生じ、優越的地位濫用にも該当する
報告書において芸能事務所がタレントの移籍制限をすることは独占禁止法違反になる場合があると明言しています。近年最も話題になっている「芸能人の移籍制限」ついて公取委が見解を示したことになります。芸能人の移籍制限がそもそも独占禁止法の対象になることが明確化されたという点では確かな前進といえます
Point 2
芸能事務所を移籍しようとするタレントに一定の不利益を課す行為は独禁法上の問題が生じる
移籍制限の前段階として「移籍しようとするタレントに不利益を課す行為」も独禁法上の問題があるとされました。例えば「事務所辞めるつもりなら、もう仕事は振らないよ」と半ば干す行為です。公取委が、事務所が干すことを手段としてタレントの移籍を制限しようとする実態に着目した結果といえます
Point 3
タレントが「労働者」であることが独禁法の適用除外事由にならない
実務的には、タレントが労働者であることを前提に裁判所に未払賃金訴訟を提起した場合であっても、同時に公取委に対して事務所の優越的地位濫用を主張することができるとなります。タレント側が労働者としての側面と事業者としての法的保護を受けることが可能になります
Point 4
芸能事務所の投資回収の必要性にも留意
芸能事務所にとっての投資の回収という側面は必要不可欠な要素です。この要素を無視すれば芸能事務所は存続が困難になります。問題は「投資回収との調和」であり「芸能事務所の投資の回収に必要な期間、売上の線引をどうするか」です。ここについての私の考えは別の機会に書いてみようと思います
Point 5
タレントに対するネガキャンにも一定の配慮
報告書ではタレントのネガティブ情報が業界内で広まることがその後のタレント活動に支障がきたす状況があるか否かが、優越的地位の認定にあたり考慮する旨明言されています。公取委がイメージという芸能人に顕著な要素にも言及しており、芸能界の特殊性により配慮するような報告書と考えることもできます
今度の課題 
公取委は『移籍制限は独占禁止法に違反する』という断定的判断をすることはできません。公取委は行政処分をする権限はありますが、最終的に適法・違法の判断をするのは裁判所だからです
。今回の報告書には「移籍制限は違法になる可能性がある」とはされていますが「違法である」と断定はしていません
「移籍制限は違法なんだ」という断定的判断をさせるためには、公取委や裁判所に個別具体的な事件を持ち込むことが必要になります
タレントが泣き寝入りするのではなく、声を上げていくことが次のステップに行くためには不可欠になるでしょう
そして「タレント正義で事務所が悪」ということは一切ありません。公平、協調しながら発展的で夢のあるエンターテイメント業界の土台作りが大切なのではないかと思います