【連載】きっびす(3)木佐悠弛
鐘の音
年内の仕事納めだった二十九日に、
大学通りのTSUTAYAでDVDを十数本借りた。
帰り道、通りを歩きながら、
TSUTAYAを漢字でどう書くんだっけ、なんて思っていた。
漢字がでてこないので頭を切り替えると、
並木のイルミネーションが僕のそばできらめている。
まるでクリスマスがまだ続いているみたいだ。
来年はどんな一年になるのだろう。サンタさんになにかお願いしてみようか。
でも、サンタさんもクリスマスに世界じゅうをとびまわっていそがしかったんだろうな。
きっといまごろ休んでいるにちがいない。
そんなことを思いながら、家へ帰った。
大晦日の今夜もDVDをずっと観ている。
今夜だけで何本観ただろうか、なんて思っていると、
ゴーンとどこからともなく音が聞こえてきた。
ああ、もう年が明けたのか。
今年もとくべつなにもなく新年をむかえてしまった。
ブルル、と机の上のスマートフォンが振動した。
二年前に別れたひとからのメールだ。
『またアニメばっかり観ているんじゃないの?
たまには、ちゃんと初詣くらい行きなさいよね。
とりあえず、あけましておめでとう。』
あの頃、いっしょに行くのがめんどくさくて、家で寝てすごしていたっけ。
ひさしぶりの彼女からの文章はあいかわらず母親みたいな文面だった。
今夜はアニメじゃなくてラブストーリーを観ているんだよ。
そんな、素直じゃない返信を送ろうとして、文章を消した。
『あけましておめでとう。そして、ありがとう。
そっちもしあわせにね。僕は僕でなんとかうまくやっていけそうだから。』
送信をして、僕のあたらしい一年がはじまった。
窓の外には初雪がちらついている。除夜の鐘はまだ響いていた。
僕のこころのなかで、響いていた。
木佐悠弛(きさゆうし)

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