Ψ筆者作「クラマールの森1」 F10 油彩

これもパリ郊外の森。
佐伯祐三は第一次渡仏の時先輩の伝手もあり、クラマールと言う町に居を構えた。クラマールは東京で言えばとか東横線とか田園都市線沿線の郊外にありそうな、こじんまりとした小綺麗な街。パリ市全体は山の手線の内側程度の大きさだが、その外側には直ぐに森や田園が広がり、東京のように東京湾の波打ち際から奥武蔵の山の麓まで窒息しそうに家並が続くということはない。
そして第二次渡仏の最晩年、かつて一家で過ごしたその懐かしいクラマールを心身の疲弊による昏迷の中さ迷うことになる。
その晩年、佐伯一家はモンパルナス近く、リュード・ヴァンブ5番地に住んだ。筆者はそのクラマールを訪れるべく、勇んでモンパルナス駅発の電車に乗ったが、クラマールはわずかに二つ目、一つ目の駅も「ヴァンブ・カルコフ」という、なんのことはない、ヴァンブと地続きの所だった。
現在のクラマールは美しく整備されており、バスで移動するような結構広い町で、佐伯や他の日本人画家らが住んでいたような往時の面影は感じなかった。恐らく森はもう少し駅の方へ向かって迫っており、その森に溶け込むように画家らのアトリエ兼住居が点在していたのではないか。
筆者も森をめざし町を縦断するように歩いたが、なかなか森には辿りつけず、やっと、高速道路が縫う一角のせせこましい、それらしい表示のある入口らしいところに達したが、地図によれば中は広大なものであるはずだった。
(つづく)