Ψ筆者作「パリスの審判」 F8 上 ストラッポ画面をパネルへ貼り付け
                下 剥がした後の元画面を再生
元絵(下絵・フレスコブオノ・全素材踏破4)
イメージ 1
 イメージ 2フレスコにおいて最大の難題は何と言っても、下地が濡れているうちに描かかなければならないということである。これとともにA級の難物がストラッポというフレスコ独特の転写技術である。先に述べたがこれは修復や展示のための移動などの利便から、相当後代に生まれた技術と思える。なぜなら本来のフレスコとは壁画であり、最初からパネルや麻布に転写し、外部で展示することを想定したものではなかったからである。
 先に難物と言ったが、これは鏝使いに慣れ、理屈を理解し、正しい手順を踏み、丁寧にやれば程なくできるようになる。「ストラッポ」は英語のストリップ(剥がす)で、オリジナルのフレスコの全面に湯煎した濃い目の膠を塗り、麻ガーゼ(寒冷紗)を貼る。数日後乾燥した寒冷紗を静かに剥がす。これにスタッコ表面の薄い石灰層に覆われた描画層が着いてきて、一緒に剥がれるのである。これを麻布またはパネルに接着し、それが乾燥後、暖かいお湯をかけながらに膠を溶かし寒冷紗を除去する。
 つまり、フレスコがキャンバスまたはパネルに貼られたタブローになるのである。
それは先ず、割と均一な細か目の砂を混ぜたスタッコを平坦に塗る。平坦とは水平ということであり、凹凸なくということである。フレスコの持ち味を生かすため表面はツルツルした「平滑」である必要はない。平坦であることにより表面に塗る膠が全面にムラなく塗れ、したがってムラなく剥がせ、きれいに転写できる。ただ、そうして上手く転写できたものは、先に述べた展示等の利便に適う、キャンバスやパネル地のタブローに生まれ変わったということだけであり、その必要がない場合は余り意味がないということになる。
 筆者にあってはそれに当るので、もう一つの意義を追求したい。それは、そうすることで醸し出される古い壁画的な味わいということである。落剝、亀裂、掠れ、汚れこれらを意図的に創りだす、言わば「古さの創造」の妙味である。今日の油彩中心の画材の世界にあってはそれがフレスコの大きな魅力であり、そのことにより、わずかながらでも、500年前のルネッサンスから2000年前のポンペイ、否20000年前のラスコー・アルタミラの世界に遡るような思いに浸れのである。
 なお、上掲作品が微妙に違うのは貼り付け作はオリジナルフレスコに、再生作は下絵(グアッシュ)に基づくからである。