Ψ筆者作「赤い屋根の村3」 F20 油彩
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 反戦」や「平和」を唱えると、一方の陣営から「現状認識と論理性を欠いたセンチメンタリズム」との批判が往々にして出る。この種のフレーズにはそっくりそのままお返しする。
 去る8月15日BS放送テレビ東京の「戦後70年特集」の登場者の中に筆者の岳父(故人)が出た。かの戦争末期、サイパン島で日本兵は玉砕したと伝えられているが、実は極々少数の日本兵が投降と言う形で生き残った。「生きて虜囚の辱めを受けるな」との教義の下に、投降するするくらいなら死ねと言われ、多くの日本兵はそうして絶望的な戦いを行い、あるいは自死したが、彼ははっきりとした意思で投降を選んだ。因みに命が助かった投降兵の中にも「寝ている間に捕まった」とかの言い訳をしたり、わざとたどたどしい日本語で二世を装う者もいたそうである。
 彼の行為は当時の件の訓令では「非国民」呼ばわりされるようなものであろうが、先ず言えば、ハーグ条約(1899年締結、日本は、1911年11月6日批准)及びその後のジュネーヴ条約では、兵士には投降し「捕虜になる権利」が認められていでるのである。したがってこれは条約に基づく合理的行為であり、捕虜になるくらいなら死ねと言う方が甚だしい「センチメンタリズム」(以下この場合は主情主義)となろう。
 彼はその後その体験を基にした著作を上梓し、それが各方面で取り上げられ、その流れで当該放映があった。
 その著作に書かれていたシリアスな現実とは、いかに戦争や軍隊が悲惨で凶暴で、一切の論理性や道理・道義はもとより、吹き込まれた精神論など他愛なく吹っ飛ぶようなヒステリックなセンチメンタリズムの支配を受けた阿鼻叫喚の地獄絵そのものであるかということである。
 先ず、以下既出拙文を援用(一部編集)
≪戦前本邦は明治期以来の「富国強兵・殖産興業」の国策があった。第二次大戦(大東亜戦争)まで精神的支柱にあったのが、「皇国史観」であり、「八紘一宇」や「五族協和」、「大東亜共栄圏」などのスローガンであり、「日本男児(やまとおのこ)や「武士(もののふ)」などと煽て上げられた精神訓が「忠君愛国」の実践訓とされた。戦局芳しくない中でも「鬼畜米英」、「撃ちてしやまん」、「国民精神総動員」から挙句に「一億玉砕」に至る。先ず、これが今日まで脈絡する日本精神とするなら、「鬼畜米英」が「無条件降伏」を境に一朝にして「アメリカ様様」になったのをどう説明するのか!?そして、「国策」に反対するものを「非国民」とし、「一億玉砕」すら要求した事実をどう責任をとるのか!?
 ユダヤとアラブは二千年以上も戦争をしている。何度勝ったり負けたりしてもその思想は変わらない。それに比してのこの変わり身の早い御都合主義は世界史に希であろう。しかも、政治家も国民もこのことについてのはっきりした思想的総括はしていないのである。これでは数百万の戦争犠牲者は浮かばれない。とりわけ、「お国のため」死んだ兵隊は何のため死んだのかわからないであろう。
 筋を通す道は二者択一しかない。一つは戦前を非とし戦後を是とするならその反省の具体的形式である憲法9条を死守すること、もう一つは改憲再軍備後アメリカを拒否し、場合によりアメリカへのにリベンジも辞さないと覚悟することである。
 ところが現下はそのどちらでもない。            
 現自民党政権は過日の選挙で「日本を取り戻す」と宣うた。これは震災からの復興だけを指したものではない。当然尖閣等領土問題や改憲などを意識したものであるが、その後も右翼・保守陣営から「国家の独立、尊厳、主体性」、あるいは先に述べたような威勢の良い日本精神論などの文言を聞く。繰り返すが、それを言うなら一朝にして「鬼畜米英」が「アメリカ様様」となった壮大な御都合主義、国家的・民族的大転換を説明すべきであろう。≫
 上記文中いろいろなスローガンが出てきたが、これらのスローガンのどこに論理性や道義性がある!つまり、百歩譲って「反戦・平和」がセンチメンタリズムとするなら、軍隊・戦争とは対極にある究極のセンチメンタリズムであり、それに異を唱えて何の行き違いがあろう。
 かの陣営は昨今「中国の脅威に備える」とか「反テロへの世界貢献」などを口実に、件の「戦争法案」、その先の「改憲」を目指すとしている。しかし、中国が今日のような脅威になってなかった頃あるいは、テロが今日のように頻発してなかった頃からアメリカの世界戦略への隷属してきた。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、すべて日本はアメリカ側につき、アメリカ戦艦、軍機は日本の基地を拠点に活動をしていたのである。つまり始めにありきは、「親米」、「対米追従」であり、今般の諸々はその強化、深化の要請からでたものである。仮想敵対象がかつての「共産主義」から「中国」に変わっただけである。
 もう一度思い起こすべきである。日本に二発も原子爆弾を落としたのはアメリカである。東京大空襲等で無差別大量殺りくを行ったのもアメリカである。今日でも国際司法裁判所は「人道に対する罪」、「戦争に対する罪」で多くの独裁者、権力者を裁いている。イスラエルは今だにナチス戦犯の追及をやめない。外国の学者だったかが、「それらに時効はない)と言った。
  (つづく)