先にも述べたが、湿式のフレスコ(フレスコブオノ)の最大の制約は画面が半乾きの状態の時、急いで描かなければならないことである。水分の蒸発の際、空気中の酸素と結合して表面に薄い被膜を作り描画面をスタッコ内に閉じ込める。これが永きにわたる安定性を生む。乾いてしまった画面ではメデュームで定着させる必要がある。これが乾式(アセッコ)だが、湿式のような堅牢性や鮮やかな発色はなくなる。ダヴィンチの「最後の晩餐」の疲弊が酷いのはテンペラであり湿式でなかったからである。そこで必要な作業は、
Ψ筆者作 「パリスの審判」 アフレスコ
〇一日で仕上げる
〇下絵を描いておく
〇それを転写する
大画面や丁寧な描写をするものは、画面を分割し区画ごとに完成させる。これを「ジョルナータ」(一日分のしごと)という。ジョットやデラ・フランチェスカの画面に不自然な分割の後が見えるのは、その都度濡れたスタッコを作り、その上に描画した跡である。つまり、大まかに描き、次第に細部を仕上げていくという普通の絵画と異なり、フレスコはパート毎に完成していかなければならない。中世は画房ごとに大人数で仕事をしたのでこうした面倒も軽減されたのであろう。

Ψ筆者作 「パリスの審判」
グアッシュ F8
フレスコ下絵のため描いたものだが時間の制約がないためフレスコより描き込めた。

F8
一日で一気に描いたため仕上げは粗いが、メデュームを使わないため顔料の発色は他画材に比し抜きん出ている。アルタミラやラスコー、高松塚などの壁画を想起させる。
Ψ筆者作 「東方三博士の訪問」
アフレスコ F10 (画像削除)
これもスタッコを塗り2時間ほど置いて一日で描いた。
何とも修正したい気持ちになる。
◎反省点
今回は試行のため下地づくりから描画に至るまで当然満足できるものではなかった。次回はもっと大きな画面、滑らかな画肌でジョルナータで本格的に描きたい。
粗い砂粒が混じるとスタッコを引っ掻いてしまう。砂の粒をふるいでそろえることは砂洗いと一緒にできる。
顔料の一部はフレスコでは使えない。変色、粉化があったり、耐アルカリでなかったり、重ね塗りの際上層の顔料を遮る「セメント質」であったりするものは避ける。そうしたことと、下地の保水具合により指でこすると粉のまま取れてしまったりするのは致命的である。