イメージ 1Ψ筆者作 「ヨットハーバー・夏の日」 F30 油彩 (未完)
 
 思えば若い頃から随分といろいろな所へ描きに行った。重い画材を抱えてモティーフを探して野山を流離った。厳冬の山では骨髄まで凍りながら雪景色を描いた。夏の日盛りの道を歩き、ボーッとして気分が悪くなったこともあった。それでも絵を描いていくうち、そよ風に汗が引いていくのを感じ、カッコーの声が聞こえたりし、裸足になって冷たい川に足を漬けたりすると、風景を描くことにささやかな幸福を感じたりする。山奥にタクシーで水車や棚田を描きに行ったはよいが、帰りの事を忘れ、駅まで2、3時間に道のりを歩いたことがある。ある時は親切な地元の人の車に拾われて助かったこともあった。ヨーロッパでは風景というより、歴史・文化に圧倒されひとたびは茫然としたが、今では街の匂いさえ思い出される。
 どんな出来の悪い作品も、そういうものの積み重ねだ。絵を描く事により、自然に接し、自然に接したその時間こそが嘘もはったりもない、確かな人生の時間、すなわち自分がこの世の光に晒されることのレゾン・デートル。そうしたものを差し引いた人生を考えるとゾッとする。世の森羅万象、人の世の移ろいやすさ、胡散臭い人間社会、絵は本当に難しい。絵を描いていくことは大変なんだ、ふざけたことを言ってんじゃねー!
 夏の終わりの蝉しぐれ、しみじみとした感慨のオソマツ!