Ψ筆者製作「古典系色調見本」(画像削除)
子供の頃住んでいたアパートの隣室が洋服屋だった。よくその部屋に入り浸った。生地の色見本を見せてもらうのが楽しかったからである。そして要らなくなった見本をよくもらった。
厚手の紙に生地の一部を小さく長方形に切って貼り付けたもので、背広の生地なので、例えばグレーならブルーグレイ系やグリーングレイ系など色調ごとにかつ明度順に数パターンほどならべられ、しかもそれが色相と織り柄ごとに何冊もまとめられているので相当な数になる。
「あんた、そんなものいっぱいもらってどうすんの!、邪魔だから捨てなさい!」と母親からは迷惑がられたが、無限とも思えるような色の展開の想像力をかきたたせる、その感覚が好きだったのであろう、それを見るのがテレビやマンガを見るのより好きで下校後の密かな楽しみだった。
何年か後、絵画の研究所に通うようになった。当然右も左も分からない状態でデッサンからやらされた。どうせ中学の美術室にあったような面取りの「大顔面」やアグリッパ辺りからだろうと思っていたら、いきなり美大受験レベルの上級石膏像のヘルメスを描かされた。
全く歯が立たなかった!
何枚か描かされたあと、「奇妙なこと」をやらされた。木炭紙の余白に長い四角を描き、それを15等分程度に仕切る。一番左は何も描かない真っ白、一番右を真っ黒に塗ってその間をグラデーションをつくっていって埋めろというものである。
非常に単調な面白くない、しかし結構難しい作業だった。やってる時はなんでこんなつまらないことをやらせるんだ!?と思った。
その後普通のデッサンに戻ったが、その練習をする前と後とでは、デッサンにおける「調子」、「トーン」、「グラデーション」などと呼ばれるものへの認識が全く違ってきた。「ハハーン、こういうことだったんだ!」この「認識」そのものを持たせることが目的の練習だった。
いくら「プロポーション」が正確でもトーンの把握が的確でないと、飛び出したり歪んだりして正確な形にはならないのである。
画材店でよくメーカーごとの色見本を置いてある。あれだけではどうも納得せず、店員の目を盗んでそっと絵の具のフタを開けてみるというのは私だけではないだろう。
あの色見本は言わば「色相見本」で、「トーン見本」としてはほとんど用を成さない。私は自分の絵の性質上、上掲のような独自のトーン見本を作る。同時に古典派系の色調見本でもある。
生地見本からはじまり、グラデーション練習を経て、トーン見本まで、自分の絵の傾向には何か一本で繋がっている縁(えん、緑じゃないよ!)を感じる。
子供の頃住んでいたアパートの隣室が洋服屋だった。よくその部屋に入り浸った。生地の色見本を見せてもらうのが楽しかったからである。そして要らなくなった見本をよくもらった。
厚手の紙に生地の一部を小さく長方形に切って貼り付けたもので、背広の生地なので、例えばグレーならブルーグレイ系やグリーングレイ系など色調ごとにかつ明度順に数パターンほどならべられ、しかもそれが色相と織り柄ごとに何冊もまとめられているので相当な数になる。
「あんた、そんなものいっぱいもらってどうすんの!、邪魔だから捨てなさい!」と母親からは迷惑がられたが、無限とも思えるような色の展開の想像力をかきたたせる、その感覚が好きだったのであろう、それを見るのがテレビやマンガを見るのより好きで下校後の密かな楽しみだった。
何年か後、絵画の研究所に通うようになった。当然右も左も分からない状態でデッサンからやらされた。どうせ中学の美術室にあったような面取りの「大顔面」やアグリッパ辺りからだろうと思っていたら、いきなり美大受験レベルの上級石膏像のヘルメスを描かされた。
全く歯が立たなかった!
何枚か描かされたあと、「奇妙なこと」をやらされた。木炭紙の余白に長い四角を描き、それを15等分程度に仕切る。一番左は何も描かない真っ白、一番右を真っ黒に塗ってその間をグラデーションをつくっていって埋めろというものである。
非常に単調な面白くない、しかし結構難しい作業だった。やってる時はなんでこんなつまらないことをやらせるんだ!?と思った。
その後普通のデッサンに戻ったが、その練習をする前と後とでは、デッサンにおける「調子」、「トーン」、「グラデーション」などと呼ばれるものへの認識が全く違ってきた。「ハハーン、こういうことだったんだ!」この「認識」そのものを持たせることが目的の練習だった。
いくら「プロポーション」が正確でもトーンの把握が的確でないと、飛び出したり歪んだりして正確な形にはならないのである。
画材店でよくメーカーごとの色見本を置いてある。あれだけではどうも納得せず、店員の目を盗んでそっと絵の具のフタを開けてみるというのは私だけではないだろう。
あの色見本は言わば「色相見本」で、「トーン見本」としてはほとんど用を成さない。私は自分の絵の性質上、上掲のような独自のトーン見本を作る。同時に古典派系の色調見本でもある。
生地見本からはじまり、グラデーション練習を経て、トーン見本まで、自分の絵の傾向には何か一本で繋がっている縁(えん、緑じゃないよ!)を感じる。