「勧酒 」干武陵   井伏鱒二訳

勧君金屈扈        この杯を受けてくれ
満酌不須辞        どうぞなみなみつがせておくれ
花発多風雨        花に嵐のたとえもあるぞ
人生足別離        さよならだけが人生だ

 上記は私の座右の銘とも言える詩である。≪「さよならだけが人生だ」とはなんとも寂しい後ろ向きな人生であること!≫という人がいるが、これは分かってない!これは井伏の「厄除け詩集」と言うものに収められた名訳である。
 そう認識することで一度しかない人生を悔いないよう、前向きに捉えられるのである。人や事象との出会いや別離を、その意味を考えながら向き合える。死んでしまえば金やものや地位や名声なんて関係ない。自分自身がどう充実して生きたか、何を残したかそれが問題だ。花に嵐とはそういうことだ。
 これほど「厄除け」になる言葉はない!

 井伏鱒二に絡むエピソード(「どうしたら…」から転記)
(以下昔読んだ本なので仔細は違っているかもしれませんが)
 
 その太宰が滞在していた旅館の払いを滞っていた。困った旅館がその催促を檀一雄にした。檀は旅館に出向き、井伏に借りてくるという太宰の代わりに人質として旅館に残った。
 待てど暮らせど太宰は戻ってこない。檀は仕方なく付け馬とともに井伏の家に出向く。なんと太宰は井伏と将棋をさしていた。
 烈火のごとく檀は怒って「今まで俺を待たせて、なんだ!このざまは!」
 太宰曰く「待たされた君も辛かっただろうが、待たせてる俺はもっと辛かった!」
 このエピソードが「走れメロス」を生んだとか。