「卵をめぐる祖父の戦争」(CITY OF THIEVES)
時は1942年、1941年9月から始まったドイツ軍による
レニングラード包囲により、食料を含めた物資の補給路が断たれた
レニングラード市民は、極度の飢餓状態で日々を生きのびる
困難な状態に追いやられていた。
「ナイフの使い手だった私の祖父は18歳になるまえにドイツ兵をふたり
殺している」で始まる本作「卵をめぐる祖父の戦争」(CITY OF THIEVES)は
このような状況下のレニングラードで、当時17歳の少年だった祖父レフ・ベニオフが
ひょんなことから金髪碧眼の“脱走兵”ニコライ・ヴラゾラと組んで、ソビエト軍幹部の
“娘の結婚祝いのケーキ用”との命令により、レニングラードから姿を消した卵を
手に入れるために、厳寒の戦場を東奔西走する冒険譚。
エドワード・ノートンを主役に起用し、麻薬の密売犯として実刑判決を受け、
過酷な日々が待ち受けている刑務所に入る前の若者の1日を描いた
“25時”の原作者であり、ハリウッド映画の脚本家としても活躍中の
デイヴィッド・ベニオフが著した本作が面白くない訳がなく、
戦争の悲惨さが行間からにじみ出ているにも拘らず、
敢えて必ずしも上品とは言えない言い回し・ギャグを多用して
笑い飛ばしたり、大逆転を組み込んだり、
ハラハラドキドキの中でオプティミスティックな展開が予想できる
作品として仕上げられている。
卵が姿を消したレニングラード、そこで庶民が食料として選択したものは?
戦火をかいくぐって卵をもとめてさすらうレフ(リョーヴァ)が出会い、レフの人生に
大きな影響を与えた、少年のようなパルチザンの射撃の名手ヴィカと
その仲間のパルチザン達、金髪碧眼の脱走兵ニコライの優しい友人達、
厳寒の中たまたま見つけた農家で肩を寄せ合い住んでいた戦争の被害者の
少女たち、地雷犬や、“雄”のニワトリを服の中に隠して温めていた少年。
戦争という極限状態で生きる人間の姿を描きながら、
時には脱線しすぎの感もあるが、その筆はユーモアに富み、時に大きな
感動をさそう。
「一度も自分の部屋から出たことのない男が、たまたま自分が住む
マンションの入り口で佇む老いた猟犬を見て哀れに思い、
サラミを与えた事から、このマンションに住む住民すべての番犬として
入り口を定住の地とするようになった老犬が数年後に死に、
この犬を埋葬するため初めて自分の部屋から出ていく」との
ニコライの架空の小説「中庭の猟犬」を作中作とする。
ハリウッド娯楽映画の神髄を体現したかのようなデイヴィッド・ベニオフの
2010年の快作。

