中国の茶文化は、数千年の歴史と深い精神性を備えた伝統です。特に潮州工夫茶は、「和」を核とした洗練された技法と哲学で知られています。本稿では、その文化を解き明かした第一人者である陳香白氏の生涯と、工夫茶の世界を探ります。
1. 苦難の中で芽生えた茶への想い
1.1 幼少期の経験
1937 年香港で生まれた陳香白氏は、戦乱により潮州に逃れます。父親の厳しい教育の中で、「竹仔魚」と呼ばれる責めを受けながらも、書道や古典に親しまされます。
1.2 茶童としての出発
14 歳で学業を中断した後、書道家佃介眉に師事。最初の課題は「花生殻で炭火をつける」ことでした。「二枚の花生殻で火をつける」という師の技には、生涯をかけても追いつけないことを後に回想します。
2. 茶道哲学の体系化
2.1 「七義一心」の提唱
陳氏は『中国茶文化』で、茶道を「七義一心」に体系化しました:
- 七義:茶芸、茶徳、茶礼、茶理、茶情、茶学説、茶導引
- 一心:「和」を核とした天人合一の思想
2.2 工夫茶の定義と特色
- 原義:「労働者が飲む茶」
- 核心:家庭における「和」と「孝」による結束力
- 特徴:21 式の流れを通じた洗練された技法
3. 世界への伝承活動
3.1 国際的な評価
- 2008 年:国家級無形文化遺産「潮州工夫茶文化」伝承人に認定
- 2011 年:ユネスコ「世界平和文化使者」称号受賞
3.2 日本との交流
日本茶道の家元との対談では、「潮州工夫茶は生活の芸術化、日本茶道は芸術の生活化」とのコンセプトを明確にしました。
4. 未来への願い
4.1 普及の課題
- 道具の入手と技法の難易度が普及障壁
- 民間レベルでの活動に留まり、政府支援が必要
4.2 家族との日常
84 歳の現在も、妻との夕食後の工夫茶タイムは欠かせません。「念一堂」と名付けた書斎で、「国際茶の日」と同じ 5 月 21 日の結婚記念日を誇りにしています。
おわりに
陳香白氏の生涯は、苦難と挑戦の連続でしたが、それがますます深い茶文化への情熱を育んだのです。潮州工夫茶は、単なる飲み物ではなく、「和」を通じた人間のつながりを象徴する哲学です。この文化を次世代に引き継ぐことが、我々の責任です。