壱迦を泊めた翌日、天海の所へ彼女を送っていくために昼頃から出かけたのだが肝心の天海が夜まで忙しく、諫名と壱迦は二人で町をぶらぶらと散策していた。
隣を歩く壱迦は人ごみに揉まれて歩き辛そうだった。見失ってしまうと大変なので諫名は彼女の手を取り、しっかりと握りしめて歩いていく。
映画を見て、壱迦に似合いそうな服を数着買い、ついでにアクセサリーも見て回る。カフェで少し休んで彼女の希望により水族館へ。何だかデートのようだと諫名は思っていた。この時間がずっと続いてくれたらいいのにと・・・。
「あれ、諫名先生だぁ。」
声をかけてきたのはよく数学準備室にくる女子生徒の一人だった。その声に連れの生徒たちも諫名に気が付き、笑みを浮かべて近づいてくる。
「妹さんと遊びに来てるんですか?」
「先生がこんなところにいるなんて、すっごい偶然。」
「私たちの相手もしてくださーい。」
好き好きに話し始める彼女たちに諫名は対応に困ってしまい、とりあえず一つ一つ質問に答えていこうとするがなかなか聞きとれない。このままではいつ解放してくれるのか分からない。いや、解放してくれるつもりなどないのかもしれない。どうにか彼女たちから離れようと頑張る諫名だったが、上手くいかなかった。
「すみませんけど、デートの邪魔しないでください。」
諫名の腕を掴んで壱迦がはっきりと言った。その言葉に生徒たちだけでなく、諫名も驚いていた。
「黎迩さん、行きましょう?」
壱迦に腕を引っ張られながら諫名は歩き出す。女子生徒たちは二人を茫然とした顔で見送っていた。
館内の広場に着くまで二人とも無言で歩いていた。諫名は壱迦に何と言って声をかければいいのか分からず、話しかけられなかった。
「あの、ごめんなさい。」
諫名に背を向けて壱迦が謝る。
「余計なことして、誤解させるようなこと言って・・・。」
どんな表情をしているのだろう、と諫名は思った。正直、壱迦がああ言ってくれて嬉しかったのだ。
「構わないよ、正直助かったしな。」
彼女の頭をよしよしと撫でて、どう切り抜けようか困っていたのだと言えば、ようやく壱迦が振り向き安心したような笑みを見せた。
諫名の知っている以前の壱迦なら、こんな言動はしていなかっただろう。彼女はいい方向に変わってきていると諫名は嬉しくなった。