1月も終わりが近づき、センター試験も無事に終了した。自己採点の結果に満足している者もいれば、落ち込んでいる者もいる。そして、それぞれの志望校の出願に追われ、まだまだ卒業という雰囲気ではなさそうだ。壱迦も試験を受けていたが、進路に関わることではないと言ってのんびりと過ごしている。自己採点すらする気がないようなので、本人の了承の下、諫名が採点した。結果は悪くなく、国公立大学に入学するなら申し分ないものだった。彼女の担任にこの結果を見せたとしたら、間違いなく進学することを強要することだろう。

 しばらくすると3年生は自由登校となり、壱迦も学校へは来なくなった。そのことを思うと諫名はなんだか寂しくなり、一人、誰もいない屋上へ向かうのだった。

 

 今日も誰もいないだろうと思っていた屋上に諫名は来ていた。まだ風が冷たく、気をつけていなければ風邪をひいてしまいそうだ。煙草に火を点け、肺の深くまで吸い込む。ここに来ると、壱迦との思い出が自然と思いだされる。その思いで一つ一つが愛しくなり、気がつけば一人で笑っていた。

「先生?」

 後ろから声をかけられ、振り向くとそこには思い浮かべていた人物が立っていた。

「壱迦、どうしたんだ?」

 学校に用事でもあったのかと聞けば、屋上に来たくなったのだと言う。諫名の隣に座り、いつものように空を見上げる瞳は以前とはどこか違っていた。

「もうすぐ、卒業か。ここで一緒に過ごせるのも、あと少しだと思うと淋しいもんだな。」

 諫名のひとり言のような呟きが壱迦は聞こえないのか、黙っている。

「・・・まぁ、壱迦が卒業した後も俺はここに来るけど。」

「そう。」

「そう。それで、壱迦みたいに一人でずっと、この空を眺めるんだ。雨の日も、風邪の日も、雪の日も毎日。」

 俯いてしまった壱迦の頭をゆっくりと撫でながら、諫名は微笑んでいた。だから、彼女が今、どんな表情で彼の言葉を聞いているのか分からない。

 いつまでも、いつまでも、二人は寄り添っていた。

 

 そんな二人を天海は扉の前で静かに見ていた。二人がいつもどんな風に過ごしているのか彼は知らなかったが、こんなにも穏やかな時間をあの二人は共有していたのだと納得した。