裁判員制度は違憲か。
司法に関する憲法の規定は、「第六章 司法」において定められている。
日頃憲法を読むことはほとんどなく、裁判報道で違憲、合憲があっても、
憲法の条文が記載されていることは、残念ながらほとんどない。
議論の前提として裁判員制度に関係する憲法の条文から書いてみる。
第76条 「司法権、裁判所、特別裁判所の禁止、裁判官の独立」
すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところに
より設置する下級裁判所に属する。
② 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、
終審として裁判を行なふことができない。
③ すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行なひ、
この憲法及び法律のみに拘束される。
第77条 「裁判所の規則制定権」
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部
規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める
権限を有する。
② 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
③ 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、
下級裁判所に委任することができる。
第78条 「裁判官の身分保障」
(略)
第79条 「最高裁判所の構成等」
(略)
第80条 「下級裁判所の裁判官、任期、定年、報酬」
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿
によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を
十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢
に達した時には退官する。
② 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を
受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第81条 「法令等の合憲審査権」
(略)
第82条 「裁判の公開」
(略)
司法に関する憲法の規定はこれだけである。国民の権利及び義務に関する
規定のうち、刑事裁判に関係する条文も抜粋しておく。
第31条 「法定手続きの保障」
何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは
自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第32条 「裁判を受ける権利」
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第37条 「刑事被告人の諸権利」
すべて刑事事件においては、被告人は公平な裁判所の迅速な
裁判を受ける権利を有する。
② 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に
与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を
求める権利を有する。
③ 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を
依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することが
できないときは、国でこれを附する。
憲法は基本的な部分を定めているのみで、解釈の余地が大きいものである。
裁判員制度も合憲か違憲かを、この少ない規定から判断せざるを得ない
ものである。
4月22日に東京高裁は裁判員裁判で懲役18年とされた中国籍の被告の
裁判で「裁判員制度は憲法上の要請に沿うもので、刑事被告人の権利を
侵害しない」として憲法違反の主張を退けた。
判決理由として
① 憲法は裁判官以外を裁判所の構成員とすることを禁じていない。
② 憲法と同時に制定された裁判所法が『陪審制度を設けることを
妨げない』と規定している
としたものである。
憲法上の要請とはいったいどの条文によるのであろうか。あまりに抽象的
にすぎるのではないだろうか。
裁判官以外を裁判所の構成員とすることを禁じた明文はたしかに存在しない
が、かといって認めるとする明文も同時に存在していない。むしろ同時に
裁判所法により陪審制度に触れているのは、それ以外を認めない趣旨と
読むのが自然な読み方であろう。
そうすると問題となるのは裁判員制度が裁判所法の予定した陪審に
該当するか否かであろう。
陪審制度では陪審員が事実認定のみを行なうのか、法の適用まて゛
行なうのか、にわかには断定できない。
陪審制は英米法を採用する諸国で主に採用されている。英米法とは
明確に規定された条文を厳密に適用しようとする大陸法と対比して語られる
ことが多く、条文に書かれていない新しい形態の犯罪などに対応するのに
適した方法ではあるが、行為規範としての法律を重視する立場からの批判
も当然存在する。
陪審制度では量刑に関与しないのが一般的な考えでもある。
裁判所法の予定した陪審制度も事実認定に限定していたと考えるほうが
自然である。
だとすれは゛喩え裁判員裁判が一審にのみ適用されるとしても、憲法80条
により職業裁判官が規定されており、第37条とあわせてかんがえれは゛
裁判員制度はなお、違憲の疑いありとせざるを得ない。
もっとも、裁判員制度の普及に熱心であった最高裁判所が違憲判断を
することは考えられないため、予測された判断であったのが今回の判決
ではある。