公訴時効の財政学
殺人などの凶悪犯罪で死刑相当の犯罪の公訴時効を撤廃する動きとなっている。
死刑にあたる公訴時効は平成16年の改正により15年から25年へと延長され、
その適用は平成17年1月1日からとされている。
現在は平成22年であり刑事訴訟法の改正による公訴時効の延長から5年しか
経過していない。時効期間延長が実効性があるのかないのかの検証が行なわれ
る期間をいまだ経過してはいない。
平成17年(2005年)1月1日に行なわれた死刑相当の犯罪の公訴時効完成は、
平成41年(2029年)12月31日である。
それ以前の犯罪は15年で時効完成であるから、最後の時効15年に該当する
のは平成16年12月31日の犯行であり、完成は平成31年(2019年)12月30日
である。
少なくとも検証すべきは、時効15年と25年によって、どれほどの事件の検挙、
解決に差が生ずるかである。
時効を延長しても、検挙ができず、時効完成数、完成率に差がないのであれば、
時効延長の効果を否定せざるを得ないし、大いに検挙率、解決数が増加すれば、
効果大と評価されよう。
現在、公訴時効を廃止しようとするのは、廃止による効果をどう考慮しているのか
甚だ疑問である。現時点で改正するとすれば、渡氏は反対ではあるが、公訴時効
25年のまま、時効完成以前の犯行、つまり犯行時公訴時効15年であったもの
をも時効25年とすることではないか。
そして延長の効果を見極めてから、廃止か否かを議論すべきであろう。
さて、ここからがこのブログのタイトルとした財政上の問題である。
私がこのブログで以前から指摘しているように年間30件以上の公訴時効が完成
している。
この30件を10年期間延長したとして、検挙不能が30件生ずるとすると、
その捜査に要する費用はいかほどであろうか。
専従捜査員を最低限の2名として、その人件費などで年間ひとり1千万円は
必要と思われる。
30件1年分で6億円が必要になる。
これが10年であるから60億円。
そしてこの計算はある年に発生したものであり、そのよく年に発生したもの
を考慮すると、
単年度で12億、さらに延長10年を総合すると、年間600億円の捜査費用が
必要となる。
そして時効が廃止された場合、成人による殺人事件を想定すると、
20歳で殺人事件を犯したとすれは゛、その平均寿命を78歳として、
58年は最低でも捜査の必要があることとなる。もちろん犯人が特定できない
場合にも、この年数程度が実質的な基準となろう。
この期間、専従捜査員2名として1億1千6百万円の捜査費用が必要となる。
そして時効廃止により捜査対象となる事件数は常時1,740件となる。
これに要する捜査費用の総額は2018億ということになる。
財政的に余裕がなければ、捜査専従は困難となり、捜査官の補充も困難となり
検挙、解決がはかれないこととなり、時効延長、廃止は効果なしとなりうる。
これほどの国家財政負担が、被害感情等のみによって生ずるためには、やはり
25年への期間延長の効果を見据える必要がある。