文化財保護の迷走 | 橘 白扇 のひとりごと

文化財保護の迷走

さきに、今般の補正予算案の中の「国立メディア芸術総合センター」


の愚策について触れたが、今回はもう少し広く文化財一般について


書いてみたい。




文化財保護法は第2条で「文化財」の定義をしている。


そのなかで、有形文化財について、


「建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、古文書その他の有形の文化的


所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの並びに


考古資料その他の学術上価値の高い歴史資料」


と定義している。



現在作成されているアニメ、映像モ確かに保護に値する文化財に


該当しないわけでは無い。


だが、その前にもっと重要なものを見落してはいないだろうか。



いわゆる人間国宝といわれる人々が創作した、工芸品、絵画、書跡


などは、それ自体を文化財として保護すべきものでは無いのか。



できる限り国家が購入し、国内に留め置く工夫をしない限り、国外に


流失し、再び戻ってくる事が困難になりそうなものは、なにもすでに


創作より長い年月を経たものとは限らない。



10年後100年後に国宝指定することが出来ない、外国所有の日本人


の手による作品の存在を予想することは、それほど困難では無い。




もっとも、現在の我が国の文化財保護の実情に嫌気を覚え、あるいは


不安を感じて、作者自らが外国へ売却、寄贈するような事態も起こりうる。


そして、我が国の文化行政は、そうした外国への寄贈者に対して、


極めて冷酷に報いている。


自国の保護行政に対する諦観を払拭しなければ、文化財の国外流失


が延々と続くであろう。




私は、連休中に、山口伊太郎遺作、源氏物語錦織絵巻展を、大倉集古館


で見た。ご承知の方も居られるであろうが、37年の歳月をかけた織物


による源氏物語絵巻であり、千年の後にも残るようにと精魂を傾けられた


作品である。


この作品全4巻は完成と同時にフランス国立ギメ東洋美術館に寄贈された。


そして、その功績により、フランス国オフィシエ芸術文化勲章が送られた。


山口伊太郎氏には、昭和43年黄綬褒章、昭和48年に勲五等瑞宝章が


国から授与されたのみである。


京都市や京都府、文化財団等からの賞はもちろんあるけれど、フランスへの


寄贈が気に入らないのか、国の無視ぶりには驚くばかりである。




こうした傾向はひとり山口伊太郎氏にとどまらず、多くの日本人芸術家が


被る国家による嫌がらせであろう。




源氏物語錦織絵巻は今回の展示のあとフランスで展示されることとなり、


再び我が国、国内で見る事ができるのは、いったい何時のことであろうか。




日本人芸術家、職人が、安心して作品を国内に留められる文化財保護


の方向が確率しない限り、文化財保護行政に将来は無い。



国立漫画喫茶と揶揄されるような施設を作っている場合では無い。


 


        基あれば壊るることなし。


                       春秋左氏伝