民法772条は違憲ではない。
民法第772条は
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
②婚姻成立の日から二百日後又は婚姻の解消若しくは
取消の日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎
したものと推定する。
と規定している。また、民法第733条は、
女は、前婚の解消又は取消の日から六箇月を経過した後
でなければ、再婚をすることができない。
②女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合
には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
と定めている。
この2つの条文の立法趣旨は、子供が父母の婚姻の
解消または取消により不利益を被らないないようにとの
配慮から、子供の父親を確保するためのものである。
生まれた子供が、親の離婚によりいわゆるててなしごになるの
を防ぐための条文である。
離婚したのだからその子は俺の子じゃない、という主張を許さず
父親の扶養を受ける権利を付与するための手段として、書かれた
条文なのである。女性の再婚禁止も、子供の父親を確定するため
の技術敵な規定なのである。それは第②項を読めばおのずと
明らかである。
民法が推定規定をおいているのは、相続に関するものを
はじめとして、権利義無関係を早期に確定いさせるためのものが多い。
推定規定はいわゆる親族に関する規定のなかでは、婚姻による
成年化(第753条)、帰属不明財産の共有推定(第762条)
のほかは、この嫡出の推定の規定が見られるのみと言える。
相続編に推定規定が存在するのは、相続を早期に確定し
遺族の日常生活に支障をきたさないことを目的とするものが中心
となる。
第886条は、胎児の相続権について、
胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
②前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、これを適用しない。
と規定している。
これも子供の相続の権利を確保するための規定である。
全般的に子供に関する民法の規定は、その保護を目的としている
ものと断じて良い。
近時、離婚に要する時間の長さにより、離婚成立前の懐胎、出産を
原因とする民法772条の推定をめぐる事例が新聞紙上に取り上げら
れている。
DVをその原因としているものもある。
しかし、今や不倫、浮気は男の専売特許でもない。婚姻中に
不倫、浮気により懐胎する女性もないとは言い切れない。
また、確かに、離婚の調停、話し合いが長引くうちに、ちがう相手と
恋愛関係になることがあるのも事実である。そしてその相手が
常に一名とかぎられるわけでもない。
その相手が常に次の正式な婚姻の相手となるかどうかも、必ずしも
決定しているわけではない。
前夫の子でもなく、再婚婚相手の子でもないという子供の出現も
必ずしも起こり得ないわけではない。
何が本当に子供の幸福か、悩ましい問題ではある。
しかし、この民法772条の規定がなければ、現在よりもっと
多くの子供が不利益を被るのではないだろうか。
推定ということは、確定と考える必要はあるまい。
民法が起草、制定された当時の医療技術では、遺伝学上の親子
関係の確定に困難があったとしても、現在のDNA鑑定等により親子関係
は容易に判断できる時代となっている。
推定を覆す技術がある以上、医学的な証明を根拠に真の親子関係
を認定することに躊躇すべきでも無い。
公的な認定資格を技術を持つ医師に与え、その証明をもって推定を
覆す方策を行政は準備すべきときに来ている。