私は先日、“和声(コード)進行とは?“というタイトルの記事を書いた。あくまでも、個人的な楽しみのためだった。「どうせ、誰も読んで下さらないだろう。だって、あまりにマニアックだから」そう、本気で考えていた。だから、思いの外の反響に驚いた。「いいね」を押して下さったみなさま、ありがとうございます。押さなくとも、記事を読んで下さった全ての方に感謝申し上げます。

 そういう訳で、第二回はもっと先へ進みたいと思います。お題は、「Ⅱ→Ⅴ進行とは?」です。

 

1) 起立、礼、着席

 さて、世の中には“和声(コード)進行”を教える本が沢山ある。もちろん、音楽学校や音楽大学もある。しかし私は、それらの説明に納得できなかった。なぜならば、習った理論では“自分の大好きな曲”を分析できなかったからだ。

 

 曲とは、

A メロディー

B 和音(コード)

C ベース

 の三要素が土台である。これにリズムが加わり、ロックンロールやバラードやサンバやレゲエになる。目的に合わせて、楽器を演奏しメロディーを歌う。全ての要素が大事である。だが今回は、B 和音(コード)に話を絞りたい(一部、C ベースにも触れます)。

 

 さて最もシンプルな、“和声(コード)進行”から始めたい。それは、「起立、礼、着席」である。

 

    起立、礼、着席

コード  C - G7 - C  ※ key は、便宜的に Cで統一します。

 

 である。誰でも子供の頃、音楽の授業で起立(C)、礼(G7)、着席(C)のコードを聴いた記憶があるはずだ。この「G7 - C」こそ、『世界で最も重要な、和声(コード)進行』である。この世のほぼ全ての音楽が、「G7 - C」を使ってできている。一部例外はあるが、僅かである。

「G7 - C」という進行について、音楽理論は導音(リーディング・ノート)という説明をする。これが世界共通の、最も公式な説明だ。だが、最初に断りたい。この説明は、よく言ってイマイチ、はっきり言って間違いである。

 

①             G7 - C

 構成音 F → E 導音(リーディング・ノート)

                  D     

                  B → C 導音(リーディング・ノート)

                  G     G

 世の中の音楽理論は、「F → E とB → C」という二つの変化が「G7 - C」を美しいスムーズな和声(コード)進行にしていると語る。だがこれは、「矢は的(まと)のそばを通ったが、狙いは勘違いだった」という例である。

 

②             G- C 

   構成音    D     

                  B → C 導音(リーディング・ノート)

                  G     G

 その証拠に、「G- C」を聴いてもらいたい。楽器の弾けない方は、友だちに頼んでギターかピアノで弾いてもらおう。この「G- C」も、スムーズな和声(コード)進行である。だが、「G7 - C」にある“ハッピーエンド感”がない。それはなぜか?

 

③ sus4

 「G7 」だけを弾いてみよう。なんだか落ち着かない、むず痒い、心がザワザワするような『不安定さ』を感じるだろう。そこで「G7 - C」と、Cに進行する。すると、トイレを我慢していたときのようにスッキリするだろう。それは、「F → E」という音の変化のせいなのだ。

 

              Csus4- C

 構成音 F → E 導音(リーディング・ノート)   

                  C → C 

                  G     G

 

                 G7 - C

構成音  F → E 導音(リーディング・ノート)

                  D     

                  B → C 

                  G     G

 

「Csus4- C」。これまた、この世のあらゆる音楽で使われている進行だ。さらに、「F → E」はメロディーとしても大活躍している。もしもこれが使用禁止になったら、世界中から名曲が激減するだろう。

 さて私は、こう主張したい。「Csus4- C」こそ、「G7 - C」の正体だ。早速、「Csus4- C」を弾いてみよう。Csus4 に、なんとも不安定な印象を受けるだろう。その後の、Cコードの爽やかさと言ったら・・・。Csus4 とG7は、同じ”不安定な魅力”を持つのである。この『不安定さ』を操ることが、一流への道である。

 それから、このことも言っておきたい。「G- C」と「G7 - C」を、上手く使い分けることだ。一流の曲は、いわゆるAメロでは「G- C」を使う。サビの直前で、「G7 - C」を使う。まるで、水戸黄門の印籠のように。「F → E」は、ここぞ!と言うところで弾くのである。そうしないと、ありがたみが薄れるのだ。

 

2)Ⅱ→Ⅴ進行

 さて、起立、礼、着席(C - G7 - C)を押さえた後で、Ⅱ→Ⅴ進行に進みたい。「Ⅱ→Ⅴ進行」と言うと、現代ではジャズの世界で語られることが多い。しかし、それは大きな誤解である。クラシックの時代から、「Ⅱ→Ⅴ進行」は使われている。20世紀に入り、ブルースやスウィング・ジャズでも「Ⅱ→Ⅴ進行」は慎み深く使用された。

 だが1940〜50年代の、”ビバップ・ジャズ”時代に入って、何でもかんでも「Ⅱ→Ⅴ進行」を使いまくるのが流行してしまった。それは、なぜか?なんのことはない。「F → E」の魅力を、濫用したのである。

 

 最近、小田和正作曲の「言葉にできない」をピアノで弾いてみた。そうしたら、この曲のコード進行にびっくりした。Aメロ以外は、サビも間奏も大サビも

 

Am7 – Dm7 - G7 - C 

※原曲キーは、Eb。

 

ずっと、この繰り返しなのだ。しかし、決して飽きない。その秘密は、「Ⅱ→Ⅴ進行」=「F → E」の魅力にあるのだ。

 

Am7 – Dm7 - G7 - C は、Key のCから数えて、「6→2→5→1」と呼ばれる。この「2→5」が「Ⅱ→Ⅴ進行」なのだが、実は「6→2」も「Ⅱ→Ⅴ進行」なのである。

 

    Am7 – Dm7 - G7 - C

構成音     G  →    F      C  →  B

     E          D       D 

     C         C  →  B      C

     A          A       G      G

 

 「G  →    F 」、「C  →  B」、「F → E」は、同じ仲間である。丁寧に解説すると、

a) 「G  →    F 」・・・Dm7にとって、『sus4 → m3』

b) 「C  →  B」・・・G7にとって、『sus4 → M3』

c) 「F → E」・・・Cにとって、『sus4 → M3』

 なのである。

先ほど、「F → E」を濫用するなと申し上げた。だが、「G  →    F 」、「C  →  B」、「F → E」とコロコロ変えればOKである。

 

 ところで、「Am7 – Dm7 - G7 - C」とは、「Am– Dm - G - C」の応用編である。

a) 「G  →    F 」・・・Am7のb7(G)が、Dm7の『sus4 → m3』を作っている。

b) 「C  →  B」・・・Dm7のb7(C)が、G7の『sus4 → M3』を作っている。

c) 「F → E」・・・G7のb7(F)が、Cの『sus4 → M3』を作っている。

 要するに、「Ⅱ→Ⅴ進行」とはb7が作っている。しかもそれは、『sus4 → 3rd(M or m)』の繰り返しなのだ。「不安定→安定」という欲求の結果なのである。

 

<Ⅱ→Ⅴ進行の実践例1>

 それでは、Ⅱ→Ⅴ進行のカッコいい応用例をご紹介したい。題材は、ドビユッシーの「月の光」である。

 この曲は、ゆったりしたテンポの前半とエンディングがあり、中間部はテンポを上げて盛り上がる構成になっている。今回取り上げるのは、前半の最後、テンポが速くなる直前である。

 

   第一コード 第二コード 第三コード 第四コード

                 G                        G                     G                  G

                 C                        C                     C                  D

右手→     G                        G                     G                  G

                 E                         Eb                   D                  

                 C                         C                    C                  B

                 G                         A                    G                  F

                                          G                    F                  

                 E                         Eb                   D                  D

左手→                                                                              G

 

※ 原曲key は、Db。ここでは、Key =C にしている。

 

 まさに、音の洪水である。入力するのも大変でした。右手左手総動員したコードを、ドビユッシーはギターみたいに「ジャララララン、ジャララララン、・・・」と弾いている。さて、みなさん。この四つのコードは、わかりますか?

 

<第一の解釈>

   第一コード 第二コード 第三コード  第四コード

    C on E    Cm6 on Eb    Csus4 on D    G7

 

 こうである。Key =Cで、「C – Cm」と進行するところが普通ではない。こういうことが、理論書には書いていない。Cの長調で、Cの短調のコードを弾いているからだ。だが、有名なクラシックの作曲家なら誰でもやっている。ビートルズも、普通に使っている。プロの作曲家では、「C – Cm」は常識なのだ。

 ドビユッシーは、「C on E– Cm6 on Eb」と、ベースラインを「E → Eb」と半音下降させている。その勢いで、次は、Csus4 onD。ベースラインは「E → Eb→ D」とさらに半音下降。とてもお洒落だ。

 だが、また”sus4”だ。おまけに、ベースはD?!。なんか変だと、考え直す。すると、Csus4 onD は、Dm7(11)というジャズみたいなテンション・コードだと判明する。Dコードのsus4(=11)は、G。リスナーは、直前のコードがCm(CEbG)なので、Gが耳に馴染んている。さらに、C(CEG)→Cm(CEbG)と進んできているから、ベースがDに進んでもGで違和感ないのだ。

 だがドビユッシーは、耳ごごちよくⅡ→Ⅴ進行をすべりこませる。

 

<第二の解釈>

 C on E  →   Cm6on Eb    → Dm7(11)  →    G7

 

 なのである。まさに、「匠の技」。21世紀になっても、ドビユッシーの音楽は街中で聴くことができる。そりゃ、そうだよね。テクニカルだもの。

 

<Ⅱ→Ⅴ進行の実践例2> 

 ロック勢も負けてはいない。ここは、ビートルズ。「Norwegian Wood」、作曲は、John Lennon がメイン。共作が、Paul McCartney である。

 実は、この曲、かなり実験的な作品である。というのは、イントロからサビまで、Cコードのみ。コード進行しないのだ。John Lennon らしい、ひねくれた曲だ。しかも、サビに入ると 「Cm - F」。ドビユッシーと同じ、「C – Cm」である。「C – Cm - F」の後、もう一度 Cm に戻る。ここで満を持して「Dm7 - G7 - C 」。

 整理すると、

 

イントロ Cのみ

Aメロ  Cのみ

サビ   Cm - F - Cm - Dm7 - G7 - C

 

 うーむ。カッコ良すぎる。美しい。その秘密は、イントロからサビまで、「C(Cm)」を続けているせいだろう。焦らされて焦らされて、やっと”Ⅱ→Ⅴ進行“が出てくる。「C(Cm)」から、「Dm7 - G7 - C 」への鮮やかな変化に、私たちは感動してしまう。思わず、ウルっとしてしまう。

 この曲は、メロディーも素晴らしいのだが、それは別の機会に。

 

 さて、今回は”Ⅱ→Ⅴ進行“のご紹介でした。本当は”Ⅱ→Ⅴ進行“について、まだお話ししていないことがたくさんあります。それも、別の機会に。