突然だが、私はインポテンツである。私は五年以上前から、うつ病の薬を服用している。心療内科の主治医によると、インポはその副作用だそうだ。最初は、ちょっとショックだった。でも、その頃の私は人生を投げていた。独身だし、彼女もいなかった。だから、さしあたり出番がなかった。なので、「まー、いーか」と放っておいた。
すると次第に、私は「インポテンツの驚くべき効能」に気がついた。本日は、この話をさせていただきたい。
① もう恋をしない
あたり前だが、性欲がなくなると誰も好きにならない。誰も好きにならないから、カッコつけたり、嘘をついて見栄を張ったりしない。誰かを口説こうとして、策を弄したりしない。ヤキモチを妬いて、不機嫌になったり誰かに八つ当たりしたりもしない。
それよりもっと、気分のいいことがしたい。もっと、大きなことがしたい。自殺と犯罪と戦争を、一件でも減らしたい。バカなことはするな。決定的な、間違いを犯しちゃいけない。そう考えて、素人小説を書いている。これは、ものすごく楽だ。びっくりするほど、楽なのだ。
② モテる
二番目の効能は、びっくりされるだろう。私だって、びっくりした。インポになると、モテるのだ。
おそらく、私の顔から煩悩が剥がれ落ちたのだう。私はもう、女性を性的な目で見ない。胸もお尻も見ない。スカートの中も、ブラウスの胸元も覗かない。その代わり、周りの女性たちを、心配している。元気かな？大丈夫かな？と、気を遣っている。
私自身は、もうモテなくていい。だから、言いたいことを言える。昔だったら躊躇したことができる。例えば、ある女性が、とても悲しそうな様子を見せたとする。笑っているけれど、悲しさの兆候が見えたとする。私は彼女を励ます。全力で励ます。
「このオヤジ、馴れ馴れしくてキモい」
そう思われても構わない。行動しないで、後で後悔したくない。「キモい」で済むなら結構だ。彼女が、落ち込まなければいいのだから。なんてやっていると、女性にはバレるらしい。
あるときから、やたら女性に身体を触られるようになった。腕、背中、太もも、手、指、お尻まで！最初は、びっくりした。それから、少し嫌だった。触られるということは、事前に予測していないとかなり不快だ。だが私を触る人は、二十代～四十代まで、未婚既婚関係なしだった。
だからまた、「まー、いーか」と割り切ることにした。触られたとしても、私の失われた性欲は甦らなかった。なので、それ以上は何も進展しなかった。むしろ私は、彼女たちに気を遣うことにした。というのは、私を触ろうとして空振りする人がいるからだ。だから「その気配」がしたら、右腕を差し出して触りやすいようにしている。
③ 顔が良くなる
三番目の効能は、さらに衝撃的だ。「あなたは、顔がいい」と言われるのだ。これも、発言者は二十代～四十代まで幅広い。だが、そんなわけはない。
私はもう五十代だ。若い頃にも、「顔がいい」なんて言われたことはない。付き合った人にも、言われたことはない。おまけにもう、シワやシミだらけの肌だ。髪は額が大幅に後退し、脳天もカッパのお皿のように禿げている。かなり酷い、見かけだろう。だから、「俺は不細工だよ」と言い返す。でも、相手は一歩も引かない。絶対に、自説を撤回しない。
心当たりが、一つだけある。それは、「笑顔」だ。私は女性と話すとき、基本的に聞き役に回る。ニコニコして、彼女の話を聞く。それから、適度にギャグを飛ばす。会話の中で、コンスタントに笑いを取る。お互い笑顔になって、会話を終える。彼女の笑顔が見れると、私の心も癒される。
きっと私の「笑顔」が、私を美化しているのだ。まるで老いたお坊さんが、仏のような微笑を浮かべるように。
この世界で、ここまでインポの良さを語る人はいないだろ。もちろん、インポになることは悲しいことだ。ほとんどの男は、落ち込んでしまうだろう。世を儚んで、正常な男を恨むかもしれない。だが同じ運命でも、物事は「考えよう」じゃないか？
インポになった人へ 性欲のことは忘れて、この世界を愛そう。本物の博愛は、インポになったほうが実現しやすい。
まだ正常な人へ とにかく、「笑顔、笑顔、笑顔」である。そうすれば、モテる。確実にモテる。でも、本当に恋（不倫含む）をするかは、自己責任でお願いします。
女性のみなさんへ 女性もとにかく、「笑顔、笑顔、笑顔」。高い金を出して、エステや美容整形に通わなくてもあなたは美しくなります。