観光協会に住所を問い合わせるのに向かった場所は青空市場が併設されていて、地元で取れた野菜などが売られていた。入口に燻製製品を売っているおじさんがたくさんの試食を持って立っていた。私と妹は暇そうに見えたのか、声をかけられた。おじさんはひとつひとつ試食を出して私たちに振る舞ってくれた。燻製だから少し値が張ったが、なかなか美味しくて買ってしまった。魚嫌いのおじさんの孫も喜んで食べると言って鮭と鯖の燻製を勧められた。我が家にも魚嫌いの息子がいるからいいかな、と思った。

中に入ると広い店内にたくさんの野菜が並べられていた。ひとつひとつ見るのも楽しい。私的には朝一番に来たつもりだけど、もう野菜が売れてしまって空になっている棚もある。朝から広い駐車場にもどんどん車が入って来ている。ペンションの管理人が、土曜日だからたくさん品物が出ていると思いますよ、と言う通りたくさんの品物と人出だった。田舎でもこんなに人がいるものなのか、と感心するくらいだ。

興味深く野菜を見ている間に先ほど電話をかけた親戚から電話がかかった。留守番電話にメッセージを入れていたのだ。この青空市場に来てくれるということだ。良かった。間に合った。ここに来た目的のひとつが果たせることになりそうで、嬉しくなる。地元の農家さんが育てた花の苗も売られていて、ひとつキキョウを買うことにした。最近私のガーデニングは多年草を植えることに集中している。気に入った多年草の苗を植えて、来年も楽しむのだ。2年ほど前に買ったキキョウは青紫色と薄いピンク色で、青紫色のキキョウは何故か枯れてしまって一度しか花を見られなかった。薄いピンク色のキキョウは二度目の花を見せてくれて嬉しかった。だから青紫色のキキョウが欲しかったのだ。そこは園芸店ではないから花の色が何色かは書いていない。多分青紫色であろう、と踏んで買うことにした。それから長い運転中にお腹が空いた時のために手づくりの菓子パンを買うことにした。こういうところは地元の人の作った物が直販されているのがいい。何だか温かい。

買い物をして目印になっている看板のところで待っていたら親戚の人が車に乗ってやってきた。駐車場に停めてこちらに来る姿を見たら、男性か女性か分からなかった。失礼な話だが、私は最近遠くから歩いてくる人の男女の区別とか年齢とかが全く当たらなくなっている。ずいぶん前からそうなのであるが、最近はそれが酷い。視力が悪くなったのもあるが、私には、その通り過ぎる人のオーラ的なものが見えているのか、全く外れる。オーラが見えると言うと大袈裟であるが、その歩いている時の雰囲気を見て、その人の男女差とか気持ちの高揚とかを上手く捉えられなくなってきている。みんなひとりの人間の中に二面性というか、ふたつからそれ以上の人格を持ち合わせているのかもしれない、とか大それたことを考えたりする。まぁそれが普通であるのかもしれない。たまたまそれが見えることがあるのかもしれない。

電話の主は女性だったので、女性のはず、と思って見ていたら、近くになってその人が女性であるのが分かった。私たちに話しかけてくれる。私は初めて会う人だった。神戸で叔母さんにその人の電話番号を聞いていて、お墓参りをするために電話したのだ。その人はさっぱりしていて歳の割に(失礼)元気なキビキビした人だった。その人の車の後についてお墓まで行くことになった。車でちょっとそこいらへんをお墓を探していたんです、と言ったら、絶対に見つからないわ、と言われた。確かに途方もないことだった。それはその人の後をついて走っていて分かることになった。神戸の叔母さんの言うことには、その辺の坂を下ったらありそうだったが、そんなことはなかった。

お墓に着いて、その前にお家にお邪魔してお茶とお菓子を御馳走になった。少し話してみるととても話しやすい人であった。しばらく話をしてお茶とお菓子を頂いて、お墓参りの支度をしてお墓に向かった。私はお線香を用意していたし、少し前に両親の墓参りをしたので、線香に着火するライターも鞄の中にあった。お花も青空市場で買ってあった。お水とお供えするお米を持ってお墓に向かった。お墓は家のすぐ近くにあって、山も登らないし、坂を降りることもなかった。ただただおじいさんおばあさんが住んでいた家があったところの横らへんにお墓はあった。ひとつひとつお墓の説明を聞いてお参りする。妹が持っていてくれたお水をお花を入れる筒に入れてお花を入れる。手を合わせる。たくさんの先祖の墓にひとつひとつ同じことをする。念願が果たせた。とても気が楽になった。

また親戚の家に戻ってお茶をもらって近くのインターチェンジまで送ってもらうことにする。早めに出ないと次の宿泊地である京都に着かない。お昼ご飯はサービスエリアで食べます、と言ったが、インターチェンジの近くに喫茶店があるから、と誘われる。私は誘われたら断らないので行くことにする。気ままな旅なのだ。予定以外のことが起きたっていいのだ。ここで親戚に会えたのも奇跡なのだ。

しばらく坂を降りたり長い道を走ったりして、喫茶店に着く。メニューにはパスタやピザやサンドイッチなどがある。妹はピザにした。私と親戚の人はパスタにした。私はパスタが好きだが、妹は好きではないのだ。本当に家族と私の好みは違う。結構違う。

料理を待ちながら、食べながら、デザートも食べながら、親戚の人とたくさんの話をした。その人は東京で10年前まで働いていたことがあり、都会的なセンスを持ち合わせていた。私とは20歳も年の差があるが、そういうことを感じさせない、楽しい会話ができた。そういう相手というのもなかなかいない。とても貴重な出会いであった。ラインも交換した。これでまた楽しい会話の繋がりができる。嬉しい思いがした。

喫茶店の駐車場で別れる時に、親戚の人と同じ車種の車であることに気がついた。私は親戚の人の車の後をついて走っていたから気づいていたが、親戚の人はその時に気づいたようだった。私の車の後ろのドアの上の方に鳥の糞が大きく付いていた。それを親戚の人は私に言って、でも明日は雨だからいいか、と言った。私もそれでいいです、と言った。本当にこの旅には鳥の糞が纏わりついてくる。何なのであろう。我が家のセキセイインコの仕業なのか。勝手に家を空けることに対する不満をテレパシーによって他の鳥に知らせていて、私の車に糞をするのか、と本気で思うくらいだ。そういうことを本気で考える私にも何か欠陥がある気がした。親戚の人と別れてまたふたりだけの旅に出た。