ホームに帰った父親は、車椅子でエレベーターから降りて来た。
付き添ってくれている介護士さんによると、ご飯の食べ方を忘れちゃったと言うらしく、介助をしているとのこと。
ほんとに忘れちゃったのかどうか、病院ではお粥と煮物を一人で食べていたじゃないか。
まあ、何でもありなんだろうなあと思うことにする。
しゃべることは、たいてい兄弟のことばかり。
兄弟というのは、人生の最後までこんなに思いを馳せてしまう存在なのか、これは父の場合だけなのか、一人っ子の私にはまったくわからない。
誰もこないというので、みんな死んじゃってるんだから来られないよというと、毎度のことながらひどく驚く。
次々に名前を挙げてくるので、次々にもういないよと返す。
みんなあっちへいっちゃったよ。
あっちってどこだ。
天国だよ。
天国は、もう父さんの家族でいっぱいだ。
戦前の水戸の家が、そのまま天国に移ったような。
そこには、ガタイのでかい男五人兄弟がいる。
そんな頃の思い出を、今の父がずっと持っていることに驚く。
それを大切に思っていることになお驚く。
そんなに仲良しだったの、強い絆だったの。
人の歴史は、当人にしかわからないものなのか。
父さんは、時々一番下の弟を私と間違う。
マサオと私を呼ぶ。
クミコだよと正すが、だんだんどうでも良くなっている。
マサオでもクミコでもどっちでもいい。
サビしいなあと父親はいうのだが、天国にいる人は玄関から入ってはこられない。
せめて、父のうたた寝にでも登場してくれればいいなあと思う。
あっちとこっちが、こうして少しずつ近くなっていく。
付き添ってくれている介護士さんによると、ご飯の食べ方を忘れちゃったと言うらしく、介助をしているとのこと。
ほんとに忘れちゃったのかどうか、病院ではお粥と煮物を一人で食べていたじゃないか。
まあ、何でもありなんだろうなあと思うことにする。
しゃべることは、たいてい兄弟のことばかり。
兄弟というのは、人生の最後までこんなに思いを馳せてしまう存在なのか、これは父の場合だけなのか、一人っ子の私にはまったくわからない。
誰もこないというので、みんな死んじゃってるんだから来られないよというと、毎度のことながらひどく驚く。
次々に名前を挙げてくるので、次々にもういないよと返す。
みんなあっちへいっちゃったよ。
あっちってどこだ。
天国だよ。
天国は、もう父さんの家族でいっぱいだ。
戦前の水戸の家が、そのまま天国に移ったような。
そこには、ガタイのでかい男五人兄弟がいる。
そんな頃の思い出を、今の父がずっと持っていることに驚く。
それを大切に思っていることになお驚く。
そんなに仲良しだったの、強い絆だったの。
人の歴史は、当人にしかわからないものなのか。
父さんは、時々一番下の弟を私と間違う。
マサオと私を呼ぶ。
クミコだよと正すが、だんだんどうでも良くなっている。
マサオでもクミコでもどっちでもいい。
サビしいなあと父親はいうのだが、天国にいる人は玄関から入ってはこられない。
せめて、父のうたた寝にでも登場してくれればいいなあと思う。
あっちとこっちが、こうして少しずつ近くなっていく。