人がその人らしく生きようとする時、どうしても眼前に立ちはだかる存在がいます。
ほとんどが父や母、または祖父や祖母、また、まれに同じくらい強い影響力を持つ人物です。

過去、まだ私たちが自分の考えを持つ以前の子供の頃、親たちはあらゆる方法で私たちに影響を与えます。
そしてそれが、たとえ子のためを思えばこそとした言動でも、それが幼い子供の心を深く傷つけることがあります。

たとえば、私で言うと、母が私は何の取り柄もない人間なので、ただただ平凡に生きよと、島根の実家から東京に出てくるのもなかなかに難しい状況でした。

私の場合は、そんな母に強く反発したのですが、でも、これが素直なやさしいお子さんならどうでしょう。
親の言い分に傷つき、自分の思いを飲み込んでしまうかもしれません。

結果、自分の本音がわからなくなり、それどころか、そのうち、自分の「心を感じる」ことをやめてしまう子供も現れます。
その子がそのまま大人になったとしたら……。
何が好きで何が嫌いで、どんな時に嬉しくて、これだけは嫌だと思うことは何なのか。
そんな心がだんだんとわからなくなり、自分を見失ってしまいます。
そのうちに、やりたいこともわからず、やがて感情そのものが動かなくなり、人に対する愛情や同情の思いまでもが薄れてしまい、人間関係にも悪影響が出ます。

実は、私はそういう人をたくさん見てきました。
素晴らしい才能に恵まれながら、親との関係が思うようにいかず、そして、反発もできず、自分の生き方を見失ってしまう……。

これを読んでくださっている方で、お子さんをお持ちなら、それが本人のためなのだと、愛情から出たことなのだと思っても、本人にとってはとんでもなく傷ついていることがあることを知ってください。
自分も実は過去に同じような気持ちになったことを思い出してみてください。
そして、お子さんを傷つけてしまったとしたら、できたら、ガス抜きをしてあげてください。
親とは言え、人間だから間違いもあると、ごめんね、と詫びるとか。

でも、子供はいつか反抗します。
その反抗こそが、大いなるガス抜きなのだと思います。
むしろ恐いのは反抗ができなかった子どもたち。
親を絶対と思い込んで育った人たちが心配です。

私には息子と娘がいますが、二人とも反抗期なるものがなく、穏やかな親子関係にも見えるのですが、しかし、それでも子どもたちも我慢していたのだと思うことがあり、できるだけ、思いつく限り親への不満を思い出せと言っています。

しかし、私にすべてをぶつけるのは気の毒だとでも思うようなので、その場合は、自分が幼かった自分をなぐさめるようにと伝えています。
「かわいそうだったなあ」と、自分が自分に言うのです。

これもかなり効果絶大で、親が亡くなってしまった方、また、親が年を取り過ぎて今さら言えない方、逆にそんなことを言ったら親との関係がさらに悪くなりそうだと思う方は、是非とも、自分自身を自分自身でなぐさめてください。

大人になった自分が幼かった頃のつらい気持ちを理解してやるのです。
自分に理解された人は、誰に理解されるより強くなります。
心が揺らがなくなります。

本当の「自信」のために、どうぞ、今日からぜひ始めてみてください。


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NHK文化センター青山教室