家に、ケンタウロスがやってきた。

 

 出会いは、某所で行われた譲渡会だった。

 

 彼は、会場の隅にぽつんと立っていた。

 首にリードをつながれて。

 

 ケンタウロスだ。

 そう思った。

 馬の胴体に、人の上半身がついている。

 

 馬の方は黒っぽい茶色で、競走馬みたいにすらっとしていた。

 

 人の方は筋骨隆々、両肩にすいかを載せられそうな肩幅だった。

 顔は凛々しく髭をたくわえ、中世ヨーロッパの戦士みたいだった。

 

 近づくと、彼のそばに譜面台のようなものが立っていて、そこにプロフィールが貼ってあった。

 

 「ケンタウロス 男性 36歳」

 

 なんか雑じゃないか。

 

 他の、例えば猫には、

 

 「リリカ 女の子 推定4才」

 

 とか書いてある。

 

 なのに。

 

 近くで見ると彼はすごい迫力だった。

 大きかった。

 私の目の高さに、6つに割れた腹筋があった。

 

 ちょっと、さわってみた。

 すると、体が少しびくっとした。

 

 びっくりさせちゃったかな。

 

 顔をうかがおうと上を見上げると、険しい表情の彼と目が合った。

 

 ご、ごめん。

 

 そう言った。少しおびえた調子で。

 

 「……分かればいい」

 

 喋った。渋い声だった。

 

 喋れるんだ。

 

 「ああ」

 

 外国の人っぽいのに、日本語、じょうずだね。

 

 「俺は、日本で生まれた」

 

 ハーフなの?

 

 「……」

 

 あ、体が馬とハーフだからややこしかったね。ごめん。

 

 「……分かればいい」

 

 ふふふ、と笑って別れた。

 話の続きは、引き取ってからにしよう、と思った。

 

 ……あれから、長い時間が経った。

 とうとう、家にやってきた。

 これから、彼との時間を忘れないために、この日記をつけることにした。