朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」
第171回芥川賞受賞作です。
読み始めて話者の一人称視点が登場人物の瞬と杏の二人のうちで知らないうちに変っていて????何か読みにくいなと思っていたら、そこにこの物語の秘密があったのです。
題名にサンショウウオとありますがこれはあの天然記念物の両生類ではありません。陰陽太極図のあの黒と白の形がサンショウウオに思えるということなのです。
この主人公の瞬と杏は実は特殊な結合双生児なわけです。彼女の父親と叔父は胎児内胎児という関係でもあります。著者の朝比奈秋さんは医師ということなのでこの面での知識もあったのでしょうか。ただ、単純に双生児だから意識が二つあるということではなく、私たちの意識というものもいくつかに分かれてしまうことがあるのではないでしょうか。平野啓一郎さんは分人という考え方を提示されてます。自分の持っている自我のすべてを大切にすることが重要なのかなと思います。この本の中では「宗教書はもっとひどかった。そこに書かれていたのは自らの自我を消滅させたという実体験で、それを読めば読むほど恐怖は減るどころか増すばかりだった。実際に自我の消滅があり得るのだと思うと、気を抜いた瞬間に自分が瞬の中に溶けてしまうような気がした。宗教家は自我を滅ぼすことが目的なのだと気がつくと、私はその偉大な宗教書を50円で古本屋に売り払った」