大江健三郎「取り替え子 チェンジリング」
大江さんの後期は殆ど読んでないので、今回読んでみて、なんか雰囲気が違うなと思いました。今回は、大江さんの義兄の伊丹十三さんの自死をモデルにして作品が作られてます。伊丹監督の事件についての詳しいことは僕は分からないので、どこまでが実際の事件を反映していいるのかは分かりません。
主人公は大江健三郎さんご自身をモデルとした長江古儀人(ちょうこうこぎと)。伊丹さんは吾良(ごろう)という名前で登場してくるように物語はフィクションなのでしょう。しかし、大江さんは御自分が育った愛媛の山村を舞台に異なるアプローチで何作も描いています。そのことをこの本の中では、「ズレをふくんだ繰り返し」という表現でご自分でも書かれてます。「万延元年のフットボール」という作品や「燃えあがる緑の木」といった作品群があるにも拘わらず、ここまで書かれるというのは、ご自分の人生への拘りというものがあるのでしょう。
この物語は、「死と王の先導者」の結びの台詞で、こう締めくくられます
ーもう死んでしまった者らのことは忘れよう、生きている者らのことすらも。あなた方の心を、まだ生まれて来ない者たちだけに向けておくれ。