幸田露伴「五重塔」
江戸の谷中の感応寺の五重塔が舞台。
技量はあるが生き方が不器用な故に「のっそり」と呼ばれている大工の十兵衛。彼は五重塔を己が手で作りたく、感応寺の上人さまに訴え出ます。既に十兵衛の面倒をみている親方筋の大工棟梁の源太が準備にとりかかっていたのです。感応寺の上人さまは最初二人で相談して誰がやるのかを決めなさいと言いながら、仏教説話を持ち出し暗に二人仲良くするようにとにおわせます。源太の方は上人さまの意向を汲み取り二人でやろうと十兵衛に持ちかけるのですが、それをつっぱねます。
源太は怒りを抑え、十兵衛に花を持たせようとします。自分の描いた図面も差し出しますが、十兵衛はそれも断わり、とにかく自分だけの手で仕上げたいと言います。そんな十兵衛に怒る源太は何とか気をしずめるのですが、それを聞いた弟子の清吉は。。。
和を以て貴しとなす、ということが通じない話。十兵衛は自分だけの手でという強い意地があります。源太も上から目線というものはあったのでしょうが、結果的には自分を抑えていきます。どちらの生き方を良しとするかは難しいところです。
ところで、モデルとなった感応寺の五重塔は不倫の末の心中事件で放火され消失してしまったのだそうです