ミシェル・ウエルベック「セロトニン」
セロトニンは精神を安定させつ脳内の分泌液です。主人公のフロランは鬱状態で、日本人女性との関係に嫌気がさし仕事も投げ出し蒸発します。本文でもフランス語にない概念として「hikikomori」という日本語で表現することが触れられています。
さて主人公のフロランは過去に付き合った女性を思い出し、あの時こうしておけば別れなかったのではないかと悔やむのですが、その時は気分の赴くままに生きていたのです。彼はこう思います

個人の自由という幻想に身を任せてしまったのだろうか、開かれた生、無限の可能性に?・・・・そういった考えは時代の精神だったからだ。・・・・ただそれに従い、そういった考えに身を滅ばされるに任せ、そのあと、長い間、それに苦しむことになったのだ

そして、最後にこう締めくくられます

その上この私がそんな哀れな者たちのために自分の人生を与えられなければならないのだろうか。それほどまでにはっきりと説明してあげなければならないのだろうか。 どうもそうらしい。

ウエルベックという作家は現代の人々が陥落していく社会を恐ろしいほどに見据えている作家のようです。警鐘を鳴らさなければ気づかないのでしょうか。。。表紙の顔の見えない男性は、匿名性でもあり一般性でもあるのです