ロジェ・マルタン・デュ・ガール「チボー家の人々13エピローグⅡ」
このシリーズのどこかの巻の解説にデュ・ガールは死にゆく人を描く作家のようなことが書いてありました。父親のオスカール・チボーの死、次男のジャックの死、このアントワーヌの死。チボー家の人々の死については心情を含めてこれでもかというくらいの描写をしてます。
この第13巻の半分以上は、アントワーヌの手紙と日記で占められています。読んでいて非常に辛くなってきます。ドイツ帝国の死(降伏)とアントワーヌの死と競い合っているかのようです。ある意味、戦争の終結は喜ぶべきものかもしれませんが、アントワーヌの死が迫っていることから、読者は喜ぶべきものには感じられません。アントワーヌの日記によると、そのドイツ降伏もアメリカ合衆国大統領のウィルソンの国際連盟を含めた平和構想もヨーロッパの国々は求めていないということで悲観的です。この「チボー家の人々」が発刊されるのは第二次世界大戦開戦間際です。著者のデュ・ガールは第一次世界大戦の戦後処理がうまくいかなかったことを目の当たりに観ているわけです。アントワーヌの目を通して戦後処理の在り方を批判しているとも言えます。
新書版で全13巻の「チボー家の人々」を読み終えて、死を必ず迎える我々がどう生きるべきかということをデュ・ガールが示してくれていると思います。それは非情であり無情なものですが、人に流されることなく自分で考えて生きるという当たり前のことなのかなと思いました