大江健三郎「M/Tと森のフシギの物語」
この物語は「同時代ゲーム」の語り方(ナラティヴ)を変えた物語。「同時代ゲーム」は学生時代に読みました。その時は読み取れたことが少なかったと思います。時を経て今「M/Tと森のフシギの物語」を読んで、すごく考えさせられました。この考えさせられるというのは僕に具体的な切実な問題を突きつけるというものではなく、何やらすごいことが書かれているけど、その言わんとすることは何だろう、それを読み取らなければいけないぞ、という知的な問いかけとも言えます。
「万延元年のフットボール」に始まる(関連したものは前にもあるようです)、大江氏の故郷の四国の山奥の物語。大江氏はしつこいように、拘り続け書き続けたわけです。
大江氏自身の課題に深く深く沈んでいくようで、読んでいる僕らもその森を中心とした村世界に絡み取られていきます。しかし、このミクロの世界は、知らないうちにマクロの世界へと導いてくれます。
それは、村上春樹さんのセカオワとマチカベのようであります。事実読んでいて、春樹さんを彷彿させてくれます。もっとも、実際は反対の関係なのでしょうが。