川上未映子「夏物語」
芥川受賞作品の「乳と卵」を第一部とし第二部を付け足した作品。第一部は「乳と卵」に手を加えてあるので、全く同じではありません。
川上未映子という作家は、物の見方が鋭くそうだったかという本質にぐいぐい迫ってきます。
今回は、女性の在り方、子供を何故作るのか、子供がほしいという感情はどういうことか、人間の生物としての存在というものに女性の立場から迫ってきます。男の僕から見ても、そうなのかと感じさせてくれ、男が読んでも読みがいがあります。
海外の40か国で発刊されても納得できる作品です
人ってさ、ずうっと自分やろ。生まれてからずっと自分やんか。そのことがしんどくなってさ、みんな酔うんかもしれんな
わたしから街や人は見えるけど、どこからもわたしは見えないような気がした。そしてそのふたつのあいだにはっきりとした太い線を引くように電車の通過する轟音が響いた。体が冷えはじめていた。
ねえ、女にとって本当に大事なことを男とわかりあうことなんかぜったいにできない
リカさんはしょせんエンタメ作家ですよ。あの人にも、あの人の書くものにも文学的価値なんかないですよ。あったためしがない。誰にでも読める言葉で、手垢のついた感情を、みんなが安心できるお話を、ただルーティンで作ってるだけ。あんなの文学じゃないわ。文学とは無縁の、あんなのは言葉を使った質の悪いただのサービス業ですよ。
これは未映子さんの作家としての思いでしょうか。言い換えれば、この本は質の悪いサービス業ではないのです。
欲望には、理由はいらないから。たとえそれが人を傷つける行為であっても、欲望には理由はいらないものね。人を殺すこともにも、生むことにも、べつに理由はいらないのかもしれないね
自分が登場させた子どもも自分と同じかそれ以上に恵まれて、幸せを感じて、そして生まれてきてよかったって思える人間になるだろうってことに、賭けているようにみえる。人生には良いことにも苦しいこともあるって言いながら、本当はみんな幸せのほうが多いと思ってるの。だから賭けることができるの。(中略)自分がその賭けに負けるなんて思ってもいないの。自分だけはだいじょうぶだって心の底では思ってるんだよ。ただ信じたいことをみんな信じているだけ。自分のために。そしてもっとひどいのは、その賭けをするにあたって、自分たちは自分たちのものを、本当に何も賭けてなんかいないってことだよ
生まれてきたを肯定したら、わたしはもう一日も、生きてはいけない