泉鏡花「鏡花短篇集」
現実の中でふいに見せる異世界。それは魔に魅入られる瞬間なのでしょう。そんな魅力のつまった鏡花の短編集。
冒頭の「竜潭譚(りゅうたんだん)」と「薬草取」は圧巻です。

路の左右、躑躅の花の紅なるが、見渡す方、見返る方、いまを盛りなりき。

情景を想像すると美し過ぎて、この世とは思われません。

・・・・いかにや、年ふる雨露に、彩色のかすかになったのが、木地の胡粉を、かえってゆかしく顕して、萌黄に群青の影を添え、葉をかさねて、白緑碧藍(はくりょくへきらん)の花をいだく。さながら瑠璃の牡丹である。

鏡花の語調は文語故は恐ろしいほどに情景を描き出すのです。